[青森県内観光]
「 写真エッセイ─あ お も り 心 象 百 景 」
写真・文 山内 正行(編集者/青森市在住)
前へ          次へ
あおもり心象百景 その2


岩木山─II 祈りの山

 岩木山は古来、信仰の山として崇められてきた。
いうまでもなく、現在も百沢に岩木山(いわきやま)神社があり、頂上にはその奥宮が祀られている。
 旧暦八月朔日(ついたち)には、お山参詣が行われ、五穀豊穣の感謝と祈願を込めて、近郷近在の人々が奥宮目指して登拝する。
 岩木山信仰に関わる話はたくさんあるだろうが、筆者が興味深く思っているのは、「お岩木様一代記」である。
 これはイタコが語る“あんじゅが姫”を主人公にしたおとぎ話のような口伝えである。
“あんじゅが姫”が、この世で不幸な出生と残酷非道な目に遭いながら、ついにはすべてを克服して岩木山の高神(たかがみ)になるという物語。
その高神になった日が、旧暦の八月朔日なのだという。
 この物語をごく短い掌編(しょうへん)漫画に創作したのが、青森市在住の漫画家ナツイダイク氏である。
 古くから津軽に伝わる十二支の守り本尊信仰、いわゆる“津軽の一代様”を漫画化したコミック本『おおひと。』(泰斗舎刊)の中で描いている。
幼い頃の“あんじゅが姫”がなんとも愛らしく、なおかつ悲しみを誘う秀作である。
“あんじゅが姫”とは、「安寿(あんじゅ)・厨子王(ずしおう)伝説」の安寿姫に根を同じくしているとも思われるが、「お岩木様一代記」に厨子王丸は登場しない。
 そしてこの物語の最後は、“あんじゅが姫”くらいの苦しみを受けなければ、神様になるなどということはできない。
だから、人間たちも信仰を忘れるな─といった意味の言葉で結ばれている。
 イタコはかつて、目の不自由な幼少の女子が、師匠に弟子入りし、苦しい修行の末に独り立ちしたものだという。
 その姿は、“あんじゅが姫”の生い立ちに似てはいまいか。
とすれば、「お岩木様一代記」とは、イタコ修行中の娘子が、己を労り慰めるための“くどき”でもあったのでは─と、思えてもくる。


 
岩木山神社境内から仰ぎ見る岩木山頂



5月中旬の岩木山。左肩斜面に青森県の地形のような雪形が現れる


岩木山雪形・青森県

『おおひと。~津軽十二支尊之事~』(漫画ナツイダイク/原案うとう有詩・泰斗舎刊)©ナツイダイク



『おおひと。~津軽十二支尊之事~』(漫画ナツイダイク/原案うとう有詩・泰斗舎刊)©ナツイダイク



お山参詣の際に力自慢が捧げ持つ大旗


前へ          次へ

あおもり心象百景 TOP 

トップページへ