[青森県内観光]
「 写真エッセイ─あ お も り 心 象 百 景 」
写真・文 山内 正行(編集者/青森市在住)
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あおもり心象百景 その9


青森市油川─風景今昔

 数年前の大寒の時期、青森市の西北部に位置する油川漁港を訪ねた。
 時刻は朝7時ごろ、気温は氷点下5℃。
寒中には珍しく風がない冬晴れの朝で、海面は薄氷で覆われていた
もちろん波もないので、鏡のような水面には、彩り鮮やかな朝焼けの空が映り込み、そこに八甲田も逆さにぼんやりと浮かぶ。
遠くには小さく1羽の白鳥が、茜色した水面を滑るように泳いでいた。
 油川漁港には、それまでも野鳥観察のために何度か足を運んでいたが、このような叙情的な光景を目にしたのは、後にも先にもこの時限りである。
 油川は、このような自然景観もさることながら、歴史的にもなかなか興味深い土地柄である。
 やはり港の存在が、強みであったようだ。江戸時代には、近江商人が移り住み、酒造業などを営んで、豪商も多数輩出したとか。
今では、『田酒』で有名な西田酒造1軒のみだが、その建物は木造のこみせ構えで、歴史と風格を漂わせている。
 そのそばに建つ石碑も歴史を物語る。
ここはかつて、羽州街道(福島県桑折─油川間約500㎞)の終点であり、松前街道(油川─三厩間約60㎞)の起点。
かの石碑は、そのことを今に伝えているのである。
 飛行場まであったというのだから驚かされる。
旧青森飛行場は、昭和8(1933)年に民間飛行場として開港、同20年に閉鎖されている。
現在は、油川市民センターの敷地内に、当時の門標などが展示されている。
 ついこの間までは、大正期にイタリア人の実業家が建てた赤レンガの洋館もあった。
 地区には、けっこうな数の神社仏閣もある。小洒落たイタリアンの店や寿司店もある。
夏には町内のねぶた祭も──散策すれば、今に昔にと、出合いは多い。

 
油川漁港、寒中の朝焼け



かつての羽州街道と松前街道の合流地点を示す石碑と解説板


旧油川飛行場の門標を使用した記念碑


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