○神木のイチョウと野球帽の馬像が門番の賑わいの森
黒石市には温湯(ぬるゆ)、落合、板留(いたどめ)など、古くからの温泉郷がある。
この度の巡礼で疲れた足を癒すため、足湯に浸かろうと、市街地から国道102号線を南下し、浅瀬石川に沿って車を走らせた。
温泉郷の拠点となる伝承工芸館の足湯に着き、ひと休み。
でも長居をしては次の札所がタイギ(津軽弁で面倒くさい)になるので、さっと浸かって腰を上げた。
袋の観音堂は、この近くの富岡山の「白山姫神社」にある。
住宅街をかきわけて行くと、鳥居が見えてきた。鳥居脇に巨木のイチョウがある。
この「袋のイチョウ」は総長27m、樹齢400年で黒石市指定天然記念物に認定されている。
鍾乳洞内部に垂れ下がる鍾乳石のような、イチョウ特有の「乳柱」が発達し、異形な生き物のようで神木にふさわしい。
出迎えは、頭にアディダスのキャップをかぶった馬の石像。夜な夜な、この姿で境内を闊歩している様子が想像された。
参道は階段ではなくスロープなので楽なようだが、山登りに変わりはない。
ガイドブックでは500mだが、急こう配だからか、もっとあるように感じた。
道々、愛らしい三十三観音の石仏が番号順に案内役を務めていて、励みになる。
中腹から振り返ると、眼下に春の田園風景が広がる。
入り口付近で作業中だった赤いトラクターが、もう豆粒サイズだ。
エンジン音が風に乗ってかすかに聞こえてきた。
30分ほどで境内についた。
あまりの静けさに神妙になったが、またもやアディダス帽の馬像に会い、思わず吹き出してしまった。
氏子たちの馬への愛着は相当だな。
というのも、ここは三十三観音の札所の他に、自分の生まれ年の干支を信仰する「津軽一代様」の札所で、午(うま)年生まれの一代様なのだ。
また三十三観音の本尊も、初代は延暦年間(728〜806)に坂上田村麻呂が袋に入れて木に下げて拝んだ「勢至菩薩」だったが、紆余曲折し、現在は馬頭観音とされており、まさに馬づくしの神社だ。
拝殿の天井にはびっしりと千社札がはられ、多くの巡礼者の足跡がうかがえる。
名刺を貼り付けている人もいて、「○○ひとり」や「キャサリン」の名も。静かな森なのににぎにぎしく、観音様への寄せ書きのように感じられた。(辻風)
袋観音堂
本尊 馬頭観世音菩薩
御詠歌:今の世は弓矢袋に納りて 民のかまどは賑わいにけり
〒036-0412 黒石市大字袋字富岡185
TEL 0172−52−3644