[連載]

   その91〜100


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その91

「今、なぜ太宰治か」
その17
『赤字覚悟で刊行』

 1回目の昭和30年5月、筑摩書房社長が重役の反対を押し切って、赤字を覚悟の上で「太宰治全集」を出したとき、第1巻の初版は4千部でスタートしたということです。
 ところが思いもかけず売れに売れて、発売1ヵ月半で1万4千部出たそうです。
 それ以降は読者の要望もあり、普及版・新装版・定本と三種の「太宰治全集」で130万部、それに愛蔵版・新訂版・初出版・決定版等を加えると、総計220万部以上出たとのことです。
 500万部説もありますので、筑摩書房に問い合わせてみますと、「500万部というのは多すぎると思います。どれも合計20万部として220万部くらい ですので、それくらいにしておいてください。 古いものはしらべることができませんので…」とかなり控えめですが、「全集」として文庫本以上に、価値ある数字だと思うのです。



その92

「今、なぜ太宰治か」
その18
「けってい版」刊行趣旨

 筑摩書房は平成10年5月、「没後50年。太宰文学の新たな読み直しに向けて、『けってい版太宰治全集』全13巻を刊行します。その刊行趣旨を読めば「今、なぜ太宰か」が十分に理解できます。
 <太宰治は、明治末年に生まれ、昭和初頭の激動の時代に作家として登場し昭和23年、敗戦の混迷のさなかに自死するまで、自己の全存在を賭けた文章活動 をすることによって、日本の20世紀文学の一つの頂点をつくりあげたといえよう。その文業は、私とは誰か、文章とは何か、生きるということはどういうこと かを、今なおわれわれに鋭く問いかけてくる。そこに絶えず読みつがれていく、太宰治という作家の不朽の魅力がある。一方これまで、太宰ほどその私的生活へ の関心から読まれるという不幸を負った作家も少ない。しかし、太宰文学が決して私小説的な作品ではないことを踏まえるならば、その文学的営為は、より広い 視野からとらえられる必要があるだろう。没後50年という長い歴史的時間を経た今日、太宰文学の新たな読み直しが行われようとしている。…>とあります。
 作家井上ひさし氏は、<くりかえし全集が刊行されることは、それがそのまま太宰治の仕事深さと豊かさを物語っているわけです>
 文学評論家加藤典洋氏は、<文学の特徴は、その文字の彫りの深さだ…。三島より太宰の吐息のほうが文学としても、思想としても、深くて広い…没後50 年、太宰の文学はますます若く無防備になってきた。彼のように日本の20世紀に似合う文学者を持ったことを、私たちは誇りに思うべきだろう>と書いていま す。



その93

「今、なぜ太宰治か」
その19
『走れメロス』(1)

 昭和30年以降、「太宰治全集」が次々と発刊されたこと、また太宰作「走れメロス」が多くの教科書に載ったことがきっかになって、若い愛好者が急速に増えていきます。
 町内の子どもたちに一番多く読まれているのも「走れメロス」です。金木町太宰文集「新樹」の1号から5号まで、「走れメロス」読書感想文は、小学校175編、中学校23編、高等学校5編と、実に200編以上寄せられています。
 太宰文集「新樹」5号は「生誕90年特集号」として編集されました。この中から、「走れメロス」感想文の一部を次回から紹介してみます。



その94

「今、なぜ太宰治か」
その20
『走れメロス』(2)

 太宰文集「新樹」5号は「生誕90年特集号」として編集されました。この中から、「走れメロス」感想文の一部を紹介してみます。
○金木小6年
 津島 里郁
 私が「走れメロス」を読んで思ったことは、たぶんこの原稿用紙におさめきれないほど沢山あります。
 まず人を疑う事の醜さ、本当の友情、人を信じる勇気、ほかにメロスの勇敢さです。…本当の友情と人を信じるという事を学び、勇者メロスのようになれたらいいなあ、と思います。



その95

「今、なぜ太宰治か」
その20
『走れメロス』(2)

 太宰文集「新樹」5号は「生誕90年特集号」として編集されました。この中から、「走れメロス」感想文の一部を紹介してみます。
○金木小6年
 津島 里郁
 私が「走れメロス」を読んで思ったことは、たぶんこの原稿用紙におさめきれないほど沢山あります。
 まず人を疑う事の醜さ、本当の友情、人を信じる勇気、ほかにメロスの勇敢さです。…本当の友情と人を信じるという事を学び、勇者メロスのようになれたらいいなあ、と思います。



その96

「今、なぜ太宰治か」
その21
『走れメロス』(3)

 太宰文集「新樹」5号は「生誕90年特集号」として編集されました。その中に掲載されている「走れメロス」感想文です。

○嘉瀬小6年
 金沢智恵美
 もっとおそろしく、大きいもののために走っているというのだ。メロスが何を考えているのか、何のために走っているのか、私には全く分からなかった。メロ スはただ大きな力にひきずられて走っていた。何に引きずられているのか、大きな力とは何なのか私はまた、不思議に思った。・・・でもメロスは、真の勇者 だ。「走れメロス」は私に、信頼と友情を考えさせてくれた。



その97


「今、なぜ太宰治か」
その22
『走れメロス』(4)

 太宰文集「新樹」5号は「生誕90年特集号」として編集されました。その中に掲載されている「走れメロス」感想文です。
○喜良市小6年
 今 貴広
 この本の作者は、「勇気」「信頼」「友情」「正義」の四つを伝え、メロスのようになってほしいという願いがあったから、この「走れメロス」を書いたと思います。太宰治さんというすばらしい小説家が金木町にいたことを、今、誇りに思っています。



その98

「今、なぜ太宰治か」
その23
『走れメロス』(5)

 太宰文集「新樹」5号は「生誕90年特集号」として編集されました。その中に掲載されている「走れメロス」感想文です

○川倉小6年
其田 和可菜
 私にも、たくさんの友達がいるが、メロスとセリヌンティウスのように、どのようなことがあっても信じ合い、死ぬまでつき合っていける友情を作りたいと思う。
 ……こんな「走れメロス」を作った太宰治もすごいと思う。
 私は本でめったに感動しないのだが、1回読んだ時よりも2回目はもっと感動した。
 これまでいくつかの感想文を紹介したが、「走れメロス」のどの感想文も個性的で文章の切れがよく、楽しく読むことができます。
 これは「走れメロス」の文体が新しいこと、簡潔で健やかなリズム感、強く美しく結ばれた友情の絆の作品から受ける影響でしょう。
 読み手の子どもも「走れメロス」と共に走り続け、そして勇気づけられ感動します。



その99

「今、なぜ太宰治か」
その24
『教科書収録の傾向』

「走れメロス」が、いつから国語教科書に収録されたかは調査中ですが、昭和39年の三省堂の資料によりますと、その時点で使用されている中学国語教科書は「13社16種類」。
 その中で「走れメロス」は計7社に載せられています。
これは森鴎外の「山椒大夫」計10に次いで、2番目に多く登場する作品に挙げられます。
 上位は1.森鴎外「山椒大夫」10社 2.太宰治「走れメロス」7社 3.夏目漱石「坊ちゃん」6社 4.芥川龍之介「トロッコ」5社 5.竹山道雄「ビルマの竪琴」4社、となっています。



その100

「今、なぜ太宰治か」
その25
『中学校全教科書に』

 平成8年7月1日の読売新聞によりますと、中学国語教科書は20年前と比べて70頁も薄くなり、全体的に「名作」と言われる文学作品が占める比率も減ったということです。
 5社各3冊の中学国語の新教科書に森鴎外の「山椒大夫」は見当たりません。
 夏目漱石の「坊ちゃん」を載せた教科書も3社から1社に減っています。
 志賀直哉や山本有三の作品も姿を消しています。
 そうした中で、太宰治の「走れメロス」だけは人気にかげりがなく、友情をテーマにした点が好まれるのか、昭和53年ごろは5社中4社でしたが、平成9年度新教科書では教育出版、東京書籍、三省堂、学校図書、光村図書の5社すべてに収録されています。




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