[連載]

 201話 〜          ( 佳木 裕珠 )



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◆その201
父子の約束(2)

 昌郎は、初めて新しく出来た新青森駅に降り立った。
高校時代、応援団の周年行事の実行委員になった時に、幹事校での会議があり、その高校の最寄り駅が新青森駅だった。
その当時の駅は、ホームが1本と小さな落書きだらけの待合室があるだけの、うらぶれた駅とでも言うようなものだった。
夏草が繁茂する無人駅の片隅に、未来の新青森駅の予想図が立て看板として立っていたが、本当にこのような駅が出来るのだろうかと、思って眺めた記憶があるが、東北新幹線が新青森まで伸び新に建った新幹線の駅舎は、その看板に描かれていたように綺麗で立派なものだった。
八戸までしか開通していなかった東北新幹線が、新青森まで伸びたのは、1年前の12月。昌郎は、大学3年の夏休み以降、大学時代もやっていた応援団活動や就職活動そしてアルバイトのために、また大学を卒業して教員になり初めてのことだらけで右往左往して、今年のお盆にも故郷青森に帰っていなかった。
今回初めて、東北新幹線で青森に帰省し昌郎は、その変わりように驚いた。
新青森駅の新幹線のホームに降り立つと、既に夕暮れの暮色に包まれていた。
故郷に帰ってきたという安堵感がある反面、東京のあの雑踏に慣れた昌郎は一抹の淋しさも感じていた。
それは、ノスタルジュアとでも呼ぶものだろうか。
暖かな新幹線の列車から降りた瞬間に、空気の差すような冷たさを感じたからだろうか。
ああ、青森に帰って来たのだと強烈なパンチを食らったように昌郎は感じた。
青森駅は、奥羽本線に乗り換えて新青森駅から一駅先にある。
新幹線のホームから在来線に乗り換えするための在来線の新青森駅のホームは、新幹線のホームと立体的に交差した下にあった。
そこのホームも新しくなっていたが、新幹線のホームに比べると照明が一段暗くなっているように感じた。
そのせいもあるのだろうか。
在来線のホームには以前の面影が色濃く残っているように思った。
そして、徐々に懐かしさが募ってきた。
在来線に乗り継いだ。
人影も疎らな電車の窓には夕暮れの中に点在する青森の灯が見えた。
青森駅に到着した。
降り立った青森駅のホームは、以前のままだった。
薄暗く長いホームは思い出が一杯詰まっている。
小雪が舞っていた。
青森駅ほど雪の似合う駅は無いのではないだろうか。
昌郎は、改札口に急ぐ人達から、ぽつんと一人取り残されたように、旅行鞄を持ったまま、ホームに突っ立っていた。
高校一年の3月、昌郎は、このホームから就職のために上京する由希を見送った。
青森から由希がいなくなると思うと、とても淋しかった。
しかし、由希が上京してからは手紙という形で由希と繋がっていた。
その繋がりは彼等に夢や希望を与えてくれた。
しかし、由希が、青森に戻って来た時の悲しさは筆舌に尽くしがたいほどの大きく強烈な痛みがあった。
なぜなら、由希の帰省は、遺骨としての帰省だったのだから。
由希が戻ってきたのではない。
彼女の亡骸が運ばれてきただけだった。
あの日も、このホームに小雪が舞い落ちていた。
目を閉じると恰も昨日の如くに思い出される光景。
そのホームに、今、昌郎は立っている。
いや、立ち尽くしているのだった。
由希が死んでから、もう5年以上も過ぎてしまったが、由希の亡骸を涙のエールで出迎えた時の激烈な悲しみや苦しみを、昌郎は沸々と思い出していた。
立ち尽くしている昌郎の頬に、一片の雪が落ちた。
昌郎は、その静かで冷たい一片の雪に、悲しい思い出から立ち戻った。
そして彼は改札口を目指して歩き出した。



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