[連載]

 その1話〜 その5話( 神谷 直樹 )


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●その1


「い」

いち抜けたひと
いつ抜けたひと
もういいかい・もうい
いかい・もういいかい

かごめの輪をはずれて

ああ煙突のあのてっ辺
──ひらがなになって

……もういいよ……




「ろ」

老醜というふた文字は
言うまい書くまいと
……タローの信念
牢獄のふた文字は
5才で書けたと
……イチローもすごい

タローのとなりに
刑務官だったイチロー
いつからか
なににも狼狽しない
季節の縁側のふたり






●その2


「は」

売春と戦争はこの地上から消えない……

シタリ顔で語ればダメ

援助交際なんて コトバの遺伝子配列を勝手にかえてあそべばダメ

ウリする奴も買う奴も

もう一回巻いてよ小さなネジ……ギリギリのプライド……ってネジ




「に」

20世紀末〜21世紀初頭いわばきのう今日……

セーラームーンになってしまったきみ達……

どブトモモあらわに神出鬼没・神もあきれるお仕置き三昧・ショートしがちな試行回路……

きみまろじゃないぞワタシはきみ達のPTAのPだTだワタシは……




●その3


「ほ」

ホタルブクロ--

ひきだしの奥に

隠しておいたものが

真夜中にひかりを放つ

うずたかく重なった

ほこりのような時間が

わずかにくずおれ

心にあの日点滅した

たいせつな

記憶がよみがえる





「へ」

ヘクソカズラ

オオイヌフグリ

ともあれ名があれば

生きられる

雑草と私を呼ぶな

この地球から消えた

名を奪われた

あれらの命たちに

捧げた祈りも約束も

ただそれだけだ

ヘクソカズラ

ママコノシリウグイ




●その4


「と」

徳利を傾けるしぐさで

きみがきみ自身を

語りはじめるから

きみの胸もとへ ぼくは

白い酒器をさしだす

そこに満たされる

すべてのしずくの

一滴をもこぼさず

のみほす儀式は

かわる代わるくり返され

23回目の この夜

きみとの結婚記念日




「ち」

ちちという言葉を

だれが死語にした

といった問題ではない

とうちゃんとかpapaとか

おやじとか

学校で一等大事って

おそわったのに

いったい何度

呼びかけただろう

大事っておそわった

あのひとの呼び名




●その5


「り」

りべつっていくない?

<べつ>知ってる?

べつだよ別

<り>って

エキセントリックだよ

(しょうが言ってた)

(さいしょのカレシ)

ばばあがむかし

り・こん り・こんって

さわいでた

ばらばらになること

<り>って!

りべつでみんな

アッパッパー





「ぬ」

塗りこめてしまいたい

しかばねみたいな

手にあますこと

ぬぐいされないことが

いくつもある

忘れたふりをしても

いいんだろうけど

ぼく自身の それは

NO MORE WAR

祈りの痛みだ



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