[連載]

 その16話〜 その20話( 神谷 直樹 )


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●その16


「や、ま」

山が
わらっている
  *
幾千幾万の花ぶさを
ゆらせ
おどらせ
  *
ひかりを身ごもって
山が
わらっている




●その17


「け」

ゲーセンの重いドアがひらくと光や影や空気の薄さや濃さや音の塊の軽さや重さやドアのうち外のたくさんのものたちがまぜこぜになる

お湯と水とがあいまいになる浴槽に横たわって青白い無防備なぼくの裸体にもたそがれ

日は沈み
日は昇り
ゲームは終わらない


「ふ」

踏みはずす
(たとえば)ひとのみち

踏みはずす
(たとえば)光の浮橋

踏みはずす
(たとえば)水の階段

…ふ…

微笑のせつなさに
夢とうつつが逆転する




●その18


「こ」

コーナーキックからの
あざやかなシュート
うつくしい放物線に
めくるめく
喚声の音量にも
ゴールネットの懐ろに
サッカーボールは
たじろぐこともなく
すこぶる寡黙だ

Silence is golden
, sure!




●その19


「え」

えもいわれない事は
そんなには
あるものじゃない

筆舌に尽くしがたい
というレトリックも
コトバへの
強靭な信仰だ

竜宮のうつくしさは
絵にもかけない…
えもいわれない…
浦島太郎の
間違いのない間違いだ



「て」

手の象形
神の手のフォルム
高く天上にさしのべる
その指の
そのたなごころの
ひとは
ひと以上のフォルムに
神を描く事ができない

ひとしく
手を眉を
胸をあしを
肉体のフォルムを
神は
神とひとしく
ひとにあたえた

愛とおそれ





●その20


「あ」「さ」

あさむしの
朝湯の露地に
浅ぐろき人かがまりて
あざみ手折りぬ


「き」

きりぎしは
霧ゆるゆると着重ねて
北の橋脚
黄菖蒲の咲く


「ゆ」

ゆるせずにいる
憂うつか
湯のそとは
ゆめの途中を
ゆすらうめ咲く
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