[連載]

  151 〜 160       ( 鳴海 助一 )


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◆その151
 「おだェやこ」
 名詞。おだェや。おだェやこ。これは「おたいや・お通夜」の訛り。単に「たやこ」ともいう。「逮」という漢字の意味は@及ぶ。A追う。追いつく。B安ら かなさま。平和。だから「逮捕」はAの追いかけて捕えるという意味となる。「逮夜」は普通の意味は「夜に及ぶ」「夜になる」。それを仏道の方では、@人が 死んだ日の次の日の夜。葬送の前夜。A忌日の前夜。という意味に用いる。津軽でいう「たやこ」「おだェやこ」も大たい共通語的な意味に用いられている。
 人の死去に際しては、埋葬の前夜をそう呼ぶし、お通夜なども大ていこの時するようだ。また、一七日(ひとなぬか)、二七日、三七日(みなぬか)なども、 それぞれの前夜を「おだェや」といって、僧侶にきてもらい近親者もこれにお勤めをし、供養する。またさらに人死して一ケ年後の「たじび」(死んだ日・命 日・忌日)の前夜をやはり「たやこ」ちょいう。

※バゲ、たやこダハデ、ミンンツコアゲネキテケヘジャ。
○こんや、おたい夜だから、お水を上げに来て下さい。

※トナリデ、ヨベラ、おだいやこダテ、アンジュサマキテエタキャシィ。
○こおとなりで、ゆうべ、おたいやだそうで、庵主様(お寺様)がきて、読経の声がしていましたね。



◆その152
 「おッつける」(1)

 動詞(カ行下一)。これは「押しつける」の訛りとみる。意味は@押す。Aおしつける。同じ意味で、さらにひどく訛って、「ぼッつける」ともいう。

※コラコラ。ナドァエットマガ。アドコおッつけデケロデァ。(リヤカーなどが、坂道へさしかかった際)
○これこれ。お前たち、ちょっと、車の後を押してくださいねェ。お願いだよ。

※ウシロガラ、おァつけラエデ…、ミデエラエナェ。
○後ろから押されて、(苦しくて)見ていられませんよ。(花火。相撲。芝居など)

※コドシモ、ナンタカダデ、おつけラエデ…、シカダナグ、シキウゲシタデァ。
○今年も、是非といって、押しつけられましてねぇ。どうにも断りようもなくてサ。また、お引き受けいたしましたよ。(貯蓄組合長とか)

 この例では、いわゆる「推薦」の場合であるから、押しつける方に悪意はない。

※ナンボ、エラナェエラナェテモ、ナンタカダテ、おつけデ、トート、カラヘラェダデァ。(押し売り)
○いくら、要らない要らない、といっても、むりやりに、置いてサ、とうとう買わされてしまったよ。



◆その153
 「おッつける」(2)

 ▲「おッつける」の「おッ」は接頭語とはみられまい。むしろ「つける」の方を接尾語と考えたい。
接頭語と接尾語とについては、特にあらたまっていうほどのこともないが、例えば次のような場合。
1 おったまげる。ぶったまげる。ふんじばる。
2 そなえつける。呼びつける。書きつける。
 上の例では、1の「おっ・ぶっ・ふん」が接頭語で、「たまげる・しばる」が本意。2は「そなえる・呼ぶ・書く」が本意で、「つける」の方は、多分に接尾語化している、というわけ。
 そのように、「おッつける」も、「おッ・押す」が本意で、「つける」が接尾語である…と考えたい。
 ところで、標準語には、「押す」の外に、「押しつける」という言い方もあるから、方言でも、「おッつける」というのだが、ただ、単に「押す」といっていいところをも、むやみに「おッつける」というから、そこが標準語とちがうのである。

※ミンナネカテ、おッつけラエデ、シヌメニアタ。
○みんなに押されて、死ぬおもいをした。(ひどい目にあった)(満員の電車・バスなどで)

 また、みんなで「後援する」という意味の、「しりを押す」という言い方なども、津軽流だと「けつおつける」なんていうから、すぐきらわれてしまうのではないか。



◆その154
 「おッこ」

 名詞(人称)。ひどく年寄った男の人。おじいさん。同じく津軽ことばの「おじさ・じッちャ・じさま・じッこ」等に同じ。「じッこ」は一ばん下等の言い方 であるが、「おッこ」はそれより、やや聞きよい。「おじイこ」が訛ったものらしい。今では、ほとんど聞かれなくなったが、その名残として、「用心おッこ」 という語がある。これは、「夜回り爺さん」
 つまり夜警番(ネズノバン)のことで、現代では、かならずしも「年より」とは限らない。上古から野守(ヌモリ)山守り・花守り・火焼きの翁(オキナ)など皆老翁のする業であったらしい。「おッこ」は、あるいは、「おきな」の転訛か。



その155
 「おッこ」(2)

 名詞。これは、子供らの「おにごッこ」の「おに」のことである。「鬼事遊・おにごとあそび」の「おにごと」から転訛した「おにごッこ」。さらに訛って「おっこ」となったらしい。また津軽の子供らは、「おにごッこ」のことを「おッこなンじョ」ともいった。
 子供らの遊戯の名なども、標準の言い方から、地方によっては、さまざまに変わっていくようである。例えば、「かけくらべ=かけっくら=かけっこ」…そして、津軽の「はけじョこ」など。
 ところで、「おっこ」は、かくれんぼ…津軽の「かぐじョッこ」の「おに」とは少しちがう。
「かくれんぼ」の場合は、そろそろ探して行くという悠長さがあるが、「おッこなンじョ」の「おに」は、いきなり「捕まえる」にかかる。捕まえられたもの は、次の「おっこ」になる。又、三人になれば一人外れ、五人になれば一人外れるなど、いわゆる「手つなぎおっこ」は、「一人おっこ」の展開したもの。これ らは、体操遊戯の正規の種目ともなっており、古来児童生徒に親しまれてきた遊びである。



◆その156
「おッちャ」

 名詞(人称)。おっちゃ。お父さんのこと。田舎でも「えで・てで・あや」は、だんだん少なくなって、「おッちャ」が、大分聞かれるようになった。「お父 さん=お父ちゃん=おどちャ─おッちャ」となるから、この系列では、一番格が下である。この上が「どっちャ・とっちャ」。しかし、「あや・えで」よりは上 品だと考えられる。

※おッちャ、サムライカェダ、ネプタカテケロヨ。
○お父さん、侍を画いた「ねぷた」を買って下さいね。

侍を画いたねぷたは、「扇ねぷた」のこと。これは、女児持ちの「金魚ねぷた」や「燈籠」などに対していう。

その157
 「おどがる」(1)

 動詞(ラ行四段)。意味は「目をさます・眠りからさめる」。「す」をつけて、使役形の「おどかす」ともいう。「おどがる」が自動詞で、「おどかす」が他動詞だといってもよい。

※マダおどがすナジャ。自分デカデルモサナェジ。
○まだ起こさないでくれ。あんたがみてくれるのでもないのに…。(若い夫に、妻がいう場合)

 小さなか蚊帳の中でよく眠っている愛児へ、つれづれなるままに、若い夫君が、いたずらか何かして、叱られている場面である。「よくねれば、ねるとて覗く、蚊帳の中」という川柳がぴったり…。

※ナンタラネノンデキテモ、ヨンジデバおどがる。
○どんなによそで呑んできても、次の朝、四時にはパッと目を覚ます。(仕事熱心の亭主をいう)

※マンダ時計ネラヘデラナ、チャットおどがしテオゲジャ、シマリァナェシテ…。
○また時計をとまれせて…。ちゃんと直しておきなさい。だらしがなくて…。

 このような時計にも「ねる」とか「おどがす」とかいうのはなかなかおもしろい。



◆その158
 「おどがる」(2)

 辞典には、おどがる=青森県・津軽・秋田とあるが他県にはないのが不思議である。語源は言うまでもなく「驚く」である。「おどろく」は、平安時代の頃から「目覚める」意にも用いられた。用例は甚だ多い。
 新古今集巻五、秋下に「小山田の、庵近く鳴く鹿の音に、おどろかされておどろかすかな」とある。山田の小屋で、番人がトロトロ眠ったのを、却って鹿の声 に目を覚まされて、あわてて、鳴子の縄を引っぱって、鹿を嚇かした、というのである。秋の夜の山田の庵、老人と鹿、さびとユーモアと…私の好きな歌の一つ である。



◆その159
 「おどりおどてる」(1)

 連語。意味は「踊りを踊っている」というのから、転じて、機械などの一部分が、ただカラマワリ(空転)していること。「このネジが、あそんでいる」という言い方と同じ。

※オイオイ。ソノツパリァおどり、おどてらド。
○やいやい。その突っかい棒が、あそんでるぜ。

 これは仕事師(家曳きや土建業など)の親方や、棒頭(ボウガシラ)などが、作業中、作業員たちを叱りつける場合等の言い方である。「ツッパリ」 は、突っ張り棒(丸太)のこと。大木を掘り上げるとき、大きなワク(コンクリート製など)を埋めるとき、あるいは、サジキを組んで、高い所で作業をする 場合など、すべて、こみ入った仕事や、組立など、無駄になった個所。初めは必要だったところも、仕事の進展につれて不要になった場合、初めから下手にやっ て、無駄な部分ができた場合など、「おどりおどてら」という。用がないから、気楽に遊んでいる、という意味から転用したものだろう。



◆その160
 「おどりおどてる」(2)

 津軽訛りの著しい特徴(欠点)の一つとして、「ラ行音のウ段を、ア段に発音する」ということが言えるだろう。ただし、何もかもそうだというのではなく て、「…ている」という場合にだけ、特にみられる現象のようである。例えば「雨が降っている」というのを、「雨ァ降ってら」「花が咲いている」を「花ァ咲 いでら」とか、あるいは「仕事をしている」を「仕事してら」「まめまめしくしている(達者でいる)」を「まみししてる」というように、すべて何々してい る、という場合の「…ている」は、例外なしに「…てら」となる。
 そこで前の用例も、普通、語として取り出す場合は、「おどりおどてる」のように、終止形の「る」で止めてはいるが、いざ用例となると「…おどりおどてら ド」と書くことになる。そう発音するからである。…ところで、東京語などでは、そんな例はないか、とちょっと注意してみると、やはりあるようだ。例えば 「降っていャがる」が「降ってャがら」とか、「こんなもの、みんなお前にくれてやる」というべきところを、「…くれてやら」とか、あるいは「じゃ、行って 来らァネ」などと、いくらもあげられそうだ。してみると、この現象は、何も津軽弁だけの特徴(欠点・罪)でもないらしい。ことのついでだから、以上申し述 べてみた次第。類似のものは他の機会にまた。



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