[連載]

  191 〜 200       ( 鳴海 助一 )


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◆その191
 「かおのげ」(その2)

▲「眉」「かおのげ」の、他県の方言を少々。
1.このけ(岩手・宮城・秋田・山形の各県)
2.こうのけ(右の外に、福島・新潟県北部)
3.まいひげ(和歌山県日高郡)
4.まいのけ(香川・徳島県美馬郡・高知県幡多郡)
5.まいわい・まみあい(京都府与謝郡)
6.めげ(宮城県西諸県郡・鹿児島の一部)
7.やまげ・やま(千葉県君津郡)




◆その192

 「がおがおど」(その1)


 副詞。ギ声語。がおがおど。
「が」は普通の濁音。
「ど」は中の高さ。
「がお?て・がおがおてら」ともいう。
この「てら」となれば副詞ではなくて、これはまた津軽の名物?で、
「……している」という動詞性となる、重宝なものである。厳密には、
「ら」だけ離して説明すべきもの。
例えば「雨ァ降ってら・バスァとまってら・猫ァなェでら・電気ァ消ェでら」などの「ら」で、
「……ている」の「いる」の訛りであるからである。
これは中央あたりでも、
例えば「呉れてやるよ」
「泣いている」などを
「呉れてやらァ」
「泣いていャがらァ」というのと全く同じ筆法だが、津軽では、もう一歩進めて「ら」で間に合わせようというのである。
このような略音・訛音の現象は、全国的にみても、なかなか侮りがたい勢力を示しているが、将来どうなるものか……。



◆その193
 「がおがおど」(その2)


 ※ドダベナドモテ、エテミダキヤ、田ァ水ァ、がおがおてらデァ。(雨上り、稲刈りに行ってみると)
○少しでも刈ろうとして、行ってみたところが、田には水がたくさんたまっていて、歩けば「ガポ?」と音がするほどでしたよ。
※下駄ヌエで、腰巻ギタクテ、がおがおどコェデエタネ。ナガ?、キカヘナエオナゴダデァ。
○下駄を脱いで、裾をまくって(たくし上げて)ガポ?とこいで(漕いで)行ったぜ。ずいぶん気丈夫な女ですね。
これは、もとは田舎の道路などではよく見られた風景である。大水の場合には、かならず
一尺二尺も(三十センチ・六十センチ)、水増しがあるような、不便な道路が、集落に一カ所や二ヵ所ぐらいはあったものたが、そんなところへ、たま?、よそ 行きの衣裳をつけた、見知らぬ若い婦人なんか通りかかった時、さて引返すのもバカクサエ話シダので、思いっきりたくし上げて、こいでゆくのである。居 合わした村の若者連中、ホホーと、むやみに「アラエナエガル」のも無理ない話シ……。「アラエナエガル」は、「はら?する・同情する」の意。ただし、 この場合は、もっと「気にかかるもの」があるらしい。
※ヌリ、アンマリがおがおどカデバ、キニグェシテ。
○あんまり濃く「糊づけ」をすれば、着きにくくてね。
これは、衣類の更生の方法としての「ノリガエ」のことである。今、張板を使ってするあのやり方、昔は田舎の百姓の家では、ずいぶんそまつにやったもの で、屑米で作った糊の、少々薄めたやつを、ベタ?たたきつけてそれでおわり。乾いてから、多少ジョンバウジ(きぬた・衣打ち)はするものの、初めは とても痛くて着られないくらいであった。その「ゴワゴワ(強)」するのを「がおがお」ともいった。これもやはりギ声語である。
※アノフトァ、ヤギモジ、タダギデ、ツトヘバ、ソンジデモ、フスマデモ、がおがおど
サェデツマルジァネ
○あそこの亭主は「ヤキモチヤキ」でねェ。少し高じてくると、障子でもフスマ(襖)
でも、バリ?破ってしまうんだってサ……。
このような場合、別に「ジャオジャオド」もいう。紙や布などを裂く音の形容。



◆その194
 「がおがおど」(その3)


▲語源について、まず、「がお〜」は「がら〜・ばら〜・ざら〜」のように、同音を繰り返して、その音の状態を具体的に表現しようとした「ギ声語」であるから、その「がお」だけについて説明する。結論として、この語の本元は、「かわ・川・河」である。
再三申述べたように、原始第一期における造語の方法は、ほとんど、叫声・ギ声・ギ態等によったものであって、漢字の「川・河」にあたる国語の「かわ」も、水の流れる音から名づけられたものである。
P音・F音・H音・W音と変化した、経路を今詳説するいとまもないが、とにかく、太古は「カパ」。次は「カファ」。その次には「カハ」と書きながら「カ ワ」と発音して、八・九百年を経て、終戦後、とう〜、表記するにも「かわ」と書くようになったのである。現今、標準語・方言を通じて、水の音の形容詞に、 「カポ〜・ガポ〜・ガブ〜」などあるが、これは、まさしく、原子時代の人間が聞いた「水の音」そのものであったのである。
ところで、方言の「がお」は、次のような経路をたどったことに、まちがいあるまい。
がパ〜=カプァ〜=カファ~=カハ〜=カワ〜=カヲ〜=ガオ〜
「カポ〜・ガボ〜」と共に、津軽の「がお〜」も恐らく数千年前の原始民族が、そのように聞き、そのように発音したのであろうと思われる。第一期語 「川・河」の「呼び方」を、そのまま伝え来たったと考える時にこれらの国語を口にするたびに、幾千年来の、大和民族の、息吹き・イブキ」を、さながらに 聞く心地がするのである。
要するに、例えば、玩具の「ガラガラ」を「ガラ〜と鳴らす」というのと同じく、川を「カワ〜とこいでいく」というわけで、それほど、津軽の「がお〜ど」は、「川」との縁が深いのである。



◆その195
 「かがりして」(その1)


 連語。アクセントは、「かがりして」で、特に強める音も、高くする音もない。平板式である。
これは、全く特異な語で、他の自立語に附属してだけ用いられるから、付属語(接続の助詞に似ている)ではあるが、副詞にも多少似たところがある。意味は、「……くせに、……のに、……にもかかわらず」等にあたる。
主として、相手の動作・物の状態などを、「けなし」たり「あざけっ」たりする場合に用いられるようだ。
※ジェンコモナエかがりして、ソレカルジガサ、コレカルジガサテ、キキタグヘンデァ。

○お金も無いくせに、それ買うのこれ買うのといって、ききたくありませんよ。
まさに機械万能時代で、中以下の農家でも、やれ発動機だの、やれオート三輪車だのと、望みは果てしもない。若い亭主はこの頃、、毎晩のようにその話し。内幕を知ってる女房は、「ジェンコモなェかがりして」と、ぐちをいうのも無理ないことで……。
※アダレバナグかがりして、カラエバテ。
○ちょっとでも、手を当てれば泣くくせに、から威張りして、(増長する・から元気・つけ上がる)
※ユグダネ、ヌレモヘナエかがりして、エジテンシャバレ、フグシテアァテ。(馴れたての子供等)
○ろくに乗れもしないくせに、いい方の自転車ばかり引きずり廻して(歩いて)。
これは、たとえば自転車が二台ある場合。古い方は、子どもらにと思って、ガラ〜に古くなったものだが、それでもちゃんと、「カン札」をつけて、登録している。家人のヌキをみては、子どもらは、よい方の車ばかり、引っぱって歩きたがる、ということ。
※シングトハエルかがりしてへ……。エラナェジコト・フトノテヤシマヘデ。
○嫌な雨だねェ。すぐ晴れるくせに……。とんでもない仕事の手を休ませて。(予定を狂わせて)



◆その196
「かがりして」(その2)

▲「かがりして」の語源については、これまで、どう考えても、全然見当がつかない。方
言辞典には、青森県とだけあるが、秋田・岩手あたりにもありそうなものだ。
「あ」の部の「あばかがり」(虚勢・から元気・見栄坊)に、多少の手がかりはありそうだが、今は不詳としておく。




その197

「かがもか」(その1)


 副詞。がかもか。これもギ声語で、「ガタガタ・コトコト」というのに当たる。
既述のようにギ声の種類は極めて多く、それが、大ていは副詞として副詞的修飾語(連用修飾語)の役目をするのであるが、その物質・物体、つまりその音(お と)の性質によって、「ガカガカ・ガサガサ・ガサガサ・カサカサ・ガラカラ・カラカラカラ」あるいは、「ガヤガヤ・ガワガワ・カワ カワ」またあるいは、「カンカン・ガンガンガン・ゴンゴンゴン」などとなる。
「がかもか」は、さらに、「イッチャモチャ・ガサモサ・シドロモドロ・ジグモグド」のように、同音の繰返し音の語頭につけて、複雑性・具体 性を表現しようとした「ギ声語」である。これが動詞として活用すれば、「めく」という動詞性の接尾語を借りて、「がかめぐ」となる。またその動詞(四 段)の連用形が、名詞となって、「がかめぎ」となる。

※ヨバラフトバゲ、マドァがかもかテ、ユグダネ、ネラエナェデエタネ。
○ゆうべ一晩中、雨戸(窓)がガタガタ鳴って、ろく〜眠れなかったよ。(強風のために)
※ダェダバ、タンシがかめがしテラェジァ。
○誰だ。また箪笥をガタガタ(鳴らして)させているのは(子供らが何か盗もうとして)
※ヨベラ、○○ノエデ、メタネオソグマデ、がかめデエタキヤ、ケンクワシテラェダゾオンナ。
○ゆうべ、○○の家で、随分遅くまで、ガヤガヤ音がしてあったと思ったら、「けんか」していたんだそうだねェ。何のわけかしら…。困ったことですねェ。
※天井でがかもか、棚元ァがかもか、寝床でがかもかまた、頑固な親父や、怒りっぽい人、(やかまし屋)などにもいう。……あの人も加えてもいいけれども、 あどのがかめぎァオッコナェシテナ…。(あの人もこの仲まに入れてもいいけれども、どうもあとの始末がうるさくてね。何のかのと、文句ばかりいって サ…。)



その198

「かがもか」(その2)


 ▲語源は、やはり「ガヤガヤ・ガタガタ」のように、比較的「堅」いものの音(おと)の形容詞で、深い意味はない。
平安時代中期頃から、既に文献に見られる「がかめく」とは、たしかに関係があるらしい。例の今昔物語(九〇〇年前)二六に「…己や神といへば(我が神であ るぞと言えば)猿手を摺り、異猿(他の猿共が)これを見て…、木に走り登りて、がかめき合ひたり」去々。同書に「…大きさ人ばかり(ぐらい)の猿、…一の 宝倉に向ひてがかめけば…」去々。
これは、猿の「キャッキャッ」と泣き騒ぐ音の形容であるが、これが津軽・秋田の「がかめぐがかもか」の、第二期的な語源にちがいないと思う。





その199

「かがる」(その1)


 動詞。かがる。
「が」は普通の濁音。
「かがッてえぐ・かがッてける」などという。
意味1.とびつく・とびかかる・手向かう・とっ組む。
意味2.けんかをする・けんかを吹っかける。
意味3.応援する・助言する。
※コノトリァ、フトサかがてくる。
○この鶏は、人に飛びかかってくる。
※アノワラシァ、ダェサデモかがってえぐ。
○あの子は、年上でも、おとなにでも、誰とでもけんかをする。誰にでも、かかっていく。
※ジュンササ、ボウモテかがてえた。
○警官へ、棒を持って、立ち向かった。
※ワラシノケンクワサ、オヤマデかがてけだ。
○子供同士のけんかに、親も出て来て応援加勢した。
※アノフトァ、オヤジサ、ドンドドカガテエグジデァトックミアッテ、ケンクワシテルジデバ……。
○あの奥さん、だんなさんに、えらいけんまくで、手向かっていくそうだぜ。取っ組み合ってけんかしてるそうだよ(亭主族には、肌寒い話し)
※オヤサ、ドゴマデモマゲナェデ、かがてえぐ。
○親に対して、どこまでも、負けないで応戦・応対する(これは、口論・議論の場合、理屈をいうとか自説をまげないとか、善い意味の場合もある)



その200
「かがる」(その2)
 ▲「かがる」は「掛る」であるから、方言とは言われないのだが、その使用範囲、または意味が、大ぶん標準語と異なる点もあるので、取り上げてみたが大して問題にすべきこともないようだ。ただ、前の「あばかがり」や「……かがりして」などの、「かがり」とも関係があるらしく、その点では、一応注意すべき「ことば」であろう。



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