[連載]

  221 〜 230       ( 鳴海 助一 )


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その221
「がこ」

 名詞。幼児語。がこ。
「が」は普通濁音。飲む水のこと。時には、池・川・堰の水などにもいう。
※タンダ、がこがこテ、エジンジネ、ナボガェリ、ミンジノメバヘ・・・・・・。
○ただもう、ひっきりなしに、「水、水」といって、一日に何回、水を飲むんですかェ……。

※アマリ、がこノメバ、ポンポァイダグナルァェ。
○あまり水を飲むと、おなかが、痛くなりますよ。
※ホレー、ナァー、がこァエッパェアルベ・・・・・・。
○ほれ、見なさい、ねェ……。
お水がたっくさん(いっぱい)あるでしょう。
――おっかないねェ。
これは、川や池などへさしかかった時に、おんぶした幼児などに話しかける場合であるが、標準語の言い方は、こんなのでいいかどうか。



その222
「がさもさ」

  副詞。がさもさ。これは「がさがさ」と同じ。もちろん擬声語である。「も」は方言の言い方には頻繁に用いる。「エチャモチャ・ヤキモキ」「ゴソモソ・ガカモカ」。
 単なる繰返しで深い意味はない。

※クラシビネエデ、がさもさ〜テ……、ダェダバ、ソドネエダェジァ・・・・・・。ヌシボドダナ・・・・・・。
○くら闇にいてガサ〜させて……、誰ですか、そこに居るのは……。
ぬすびと(泥棒)か?……。



その223
「かしぐ」その1
 動詞(ガ行四段)。
かしぐ。「ぐ」は普通の濁音。
これは「ごはんを炊(た)く」こと。
米を煮ることにはちがいないが、他のすべての物は、「煮る」というのに、「めし・飯」に限って「かしぐ」という。
これはしかし、注意すべきことであろう。
 ところで、標準語にも古くから「かしぐ」という語がある。
その「ぐ」は鼻濁音。
「いそぐ・急」の「ぐ」のように。
前条の「かつぐ・またぐ」の類はすべて、方言では「ぐ」が普通の濁音となる。
そうかと思うと、「洗いすすぐ」「いそぐ」などは、いかなる人、いかなる場合でも、そのまま鼻濁音である。
津軽方言の発音は、いよいよもって不可思議なものとなる。



その224
「かしぐ」その2

「かしぐ」は「たく」より、はるかに古いことばである。
現今では「めしをたく」というのが普通で、「めしをかしぐ」の方は、老人層の外はあまり聞かれなくなった。
また、「ごはんをたく」その人を、「みしたぎ」「みしかしぎ」「めしたき・ままたき」というが、その「かしぎ」「たぎ・たき」は、例の用言の連用形が、名詞化したもの。
「絵かき・庭掃き・酒呑み・花売り」など皆同じ。
(無数にあり。再三既出)
 次に、ややクドくなるが、「かしぐ」の、歴史的・地理的用法について、参考事項をあげ
ておきたい。

1.万葉集巻五の、有名な山上憶良の「貧窮問答歌」という長歌の一節(原文――訓読― ―意訳の順に)
「……可麻度柔播 火気布伎多天受 許之伎爾波久毛能須可伎天 飯炊 事毛和須礼堤 ……」
「……カマドニハ ケプリフキタテズ コシキニハクモノスカキテ イヒカシグ コトモワスレテ……」
「……火焚き場には、火を燃やすこともないので、煙を吹き立てることもなく、「めし」をたく「こしき」には、使わないから、クモが巣をかけて、そんなわけで、もう「飯を炊く業(わざ)」も忘れて……」
この原文の「飯炊」は、「イヒタク」と読まれなくもないが、それでは、五七調の五音に一
音足りなくて、しっくりしない。やはり「イヒカシグ」と五音にすべきである。そこで、「かしぐ」という言い方が古代にあったという証拠ともなる。

また、「字鏡」などの辞書にも、「炊=かくし」とあるから、たしかに「たく」ではなくて「かくし・ぐ」であろう。
本元は、「かくし」。
そのまた語源は「煙・食・気」の意味をもつ国語の「か」。
この「か」の活用語であろうというのが、語源学者たちの説である。
それに賛成したい。

2.かくし(炊)=「かしぐ」の古い形。「辞海」

3.かしぐ「炊ぐ」=米・麦・粟などを煮、または蒸(む)して飯にする。飯をたく。去々(大辞典)

4.……なお、大がかりな船中の炊事を受持つ「カシキ」という任務は、青少年の若者がこれに当たるのが普通で、これが船霊様と深い関係があり……(民俗学辞典・一五七頁、漁船乗組員の任務の説明中の一節)

5.……沖縄では、強飯(オコワ・コワメシ)を「カシキ」というい、……この「カシキ」は、漁船の炊事役を「カシキ」ということや、「炊ぐ」の「カシキ」にも関係があり、「コシキ」(おこわを蒸す器具)にも関連がある……(右書・二一八頁)

6.カシキ(漁・労)=炊事をする役の者を「カシキ」というは、全国的であって、海だけでなく、山小屋でも……(日本民俗語い一巻・三四七頁)

7.かしぐ=米をとぐ事。石川県ホウ至郡。

8.かしき=炊事。岩手・茨城・愛知・長野・隠岐等。炊事をする人。
青森県野辺地・愛媛県大三島。山小屋の炊事係。奈良県吉野郡。
船の炊事係。岩手県釜石・伊豆大島・三宅島・愛知県知多郡・三重・和歌山・高知・長崎等。
以上の例によって、津軽の「めしをかしぐ」「めしかしぎ」は、極めて由緒正しく、古語の趣きを伝え得たものとして「たく」よりははるかに勝っている?
と私は思う次第である。



その225
「かしべ」

 名詞(魚の名)。かしべ。かすべ。
筆者はこのものの学名は分かりかねる。
辞典等によると、「粕倍・エヒ・かすべえい」とか、「雁木・エヒ・がんきえい」とか、または、「王余魚・かれい」などとある。
昔、小学校の先生が、地理の授業時間に、「北海道の地形はカスベに似ている」とか、「だから北海道の海岸から、カスベもたくさんとれる」などと教えてくれたものであるが、それから現在に至るまで「カスベ」についての筆者の知識は、一向に進歩していない。
ただ、津軽では「女」の卑称として「カスベ」といい、女子ばかりの家庭の親父が、「エノナガ、ジュックド、かすべバエダ。」などといってこぼす。
(ろくな者がいない、といってなげく。)
「家の中が、どれもこれも(すべてみな)、オンナばかりだ。」という意味。
また、「かすべのともあえ食って腹やんだ。」などともよく聞かされる。
これは、「かすべ」のアブラなどで、大根やゴボウの類を和えたもの。
妙にうまいが、よくあてられることがある。



その226
「かしぐ」(1)

 動詞(ガ行四段)。かしぐ。
「ぐ」は普通の濁音。これは「ごはんを炊(た)く」こと。
米を煮ることにはちがいないが、他のすべての物は、「煮る」というのに、「めし・飯」に限って「かしぐ」という。
これはしかし、注意すべべきことであろう。
 ところで、標準語にも古くから「かしぐ」という語がある。
その「ぐ」は鼻濁音。
「いそぐ・急」の「ぐ」のように。
前条の「かつぐ・またぐ」の類はすべて、方言ではなく「ぐ」が普通の濁音となる。
そうかと思うと、「洗いすすぐ」「いそぐ」などは、いかなる人、いかなる場合でも、そのまま鼻濁音である。

津軽方言の発音は、いよゝもっていよ可思議なものとなる。

 ※トシノニジュウネモナテ、アンジマシグ、ミシモかしげナェモンダデァ。
○年の二十にもなってサ、ろくに、ごはんも炊けないんですよ。

※ワラタェデバレ、ミシかしぐドゴデ、シボドァ、カチャマシシテ、ソンドデシジャ。
○ワラ(藁)を焚いてばかり、めしを炊くから、炉の中が(囲炉裡)散らばって大へんですよ。
(ワラ灰やワラの燃え残りなどで、ムサグルシイさまをいう)

※ガラ、ワラシモタドゴデ、みしかしぎカエデキタ。
○妻がお産したので、炊事婦(めしたき)を借りて(雇うて)きました。
この場合は、産婦や赤ん坊の世話も要るので、大ていはその方の経験もあるような、中年以上の婦人を雇うようである。



その227
「かしぐ」(2)
 ▲「かしぐ」は「たく」より、はるかに古いことばである。
現今では「めしをたく」というのが普通で、「めしをかしぐ」の方は、老人層の外はあまり聞かれなくなった。
また、「ごはんをたく」その人を、「みしたぎ」「みしかしぎ」「めしたき・ままたき」というが、その「かしぎ」「たぎ・たき」は、例の用言の連用形が、名詞化したもの。
「絵かき・庭掃き・酒呑み・花売り」など皆同じ。
(無数にあり。再三既出)
 次に、ややクドくなるが、「かしぐ」の、歴史的・地理的用法について、参考事項をあげておきたい。
 @万葉集第五の、有名な山上憶良の「貧窮問答歌」という長歌の一節(原文――訓読――意訳の順に)
「……可麻度柔播 火気布伎多天受 許之伎爾波久毛能須可伎天 飯炊 事毛和須礼堤……」

「……カマドニハ ヘブリフキタテズ コシキニハクモノスカキテ イヒカシグ コトモワスレテ・・・・・・」
「……火焚き場には、火を燃やすこともないので、煙を吹き立てることもなく、「めし」をたく「こしき」には、使わないから、クモが巣をかけて、そんなわけで、もう「飯を炊く業(わざ)」も忘れて……」
この原文の「飯炊」は、「イヒタク」と読まれなくもないが、それでは、五七調の五音に一音足りなくて、しっくりしない。
やはり「イシカシグ」と五音にすべきである。
そこで、「かしぐ」という言い方が古代にあったという証拠ともなる。
また、「字鏡」などの辞書にも、「炊=かしく」とあるから、たしかに「たく」ではなくて「かしく・ぐ」であろう。
本元は、「かしく」。そのまた語源は「煙・食・気」の意味をもつ国語の「か」。
この「か」の活用語であろうというのが、語源学者たちの説である。それに賛成したい。
かしく(炊)=「かしぐ」の古い形。「辞海」
かしぐ「炊ぐ」=米・麦・粟などを煮、または蒸(む)して飯にする。
飯をたく。云々(大辞典)
……なお、大がかりな船中の炊事を受持つ「カシキ」という任務は、青少年の若者がこれに当たるのが普通で、これが船霊様と深い関係があり……(民俗学辞典・一五七頁、漁船乗組員の任務の説明中の一説)
……沖縄では、強飯(オコワ・コワメシ)を「カシキ」といい、……この「カシキ」は、漁船の炊事役を「カシキ」ということや、「炊ぐ」の「カシキ」にも関係があり、「コシキ」(おこわを蒸す器具)にも関連がある……(右書・二一八頁)
カシキ(漁・労)=炊事をする役の者を「カシキ」というのは、全国的であって、海だけでなく、山小屋でも……(日本民俗語い一巻・三四七頁)

かしぐ=米をとぐ事。石川県ホウ至郡。
かしき=炊事。
岩手・茨城・愛知・長野・隠岐等。
炊事をする人。青森県野辺地・愛媛大三島。
山小屋の炊事係。
奈良県吉野郡。
船の炊事係。
岩手県釜石・伊豆大島・三宅島・愛知県知多郡・三重・和歌山・高知・長崎等。
以上の例によって、津軽の「めしをかしぐ」「めしかしぐ」は、極めて由緒正しく、古語の趣きを伝え得たものとして「たく」よりははるかに勝っている?と私は思う次第である。



その228
「かじぎ・かじげ」(1)

 名詞。草の名。がじぎ・がじげ。
「ぎ・げ」はともに鼻濁音。
このものの名前と実態はちがうようだ。
つまり、名前は「菅・スガ・スゲ」からきており、実態(実質)は「菰・コモ・マモコ」のことらしい。
「スゲ」を「かじげ」といった、その「が」は、どういう意味のものかは分からない。
津軽で「がじげ」というのは、泥沼や、堰や小川などの浅い所に生える、たけの高い草のことで、素人の言い方では、萱(カヤ)と菖蒲(ショウブ・アヤメ)の「あいのこ」のようなものである。
標準語の「まこも」というのがこれに当たるようだ。
北海道・本州・九州と、どこにでもあるらしいこの乾かして編んだものが「こもむしろ」で、それを訳して単に「こも」ともいうから、編んだものも「こも」、草の名前も「こも」ということになる。
「まこも」と一般にいうが、その「ま」は単なる美称の接頭語とみたい。
ただし海草の一種に、せいぜい四・五十センチぐらいの「コモ・小藻」というものもあって、それと粉(まぎ)らわしいから、美称、または「真正なもの」という意味の「ま・真」をつけて、「まこも」と呼んで、これと区別したのだ、という説もある。
これは確かなようだ。
「こも」の意味に当たる漢字は「菰」であり、「菰」の音(オン)は「コ」だから、「薦藻」(むしろを作る藻の意味)を「こも」というのだ、とも一応考えられるが、やはり誤りのようで、実は「籠・こ」などのように、「編む・組む」わざをするに用いる草だから「くむ・こむ・こも」の意味で、太古から大和言葉として「こも・まもこ」であったのである。
「群がって咲く」ことから「むらさき」となり、その花の名も「むらさき草」、その花の色も「むらさき・紫・シ」といったのと同じ。
こんな例はいくらもある。「醤油」を「むらさき」というのは、その色から、多少の風流気を加えて、そう呼んだもの。
つなみに、いわゆる古代紫(コダイムラサキ)といって、昔の「むらさき」の色は、多分に赤色がかっっていたという。



その229
「かじぎ・かじげ」(2)

 ▲さて、津軽ことばの「かじげ」は、たしかに「まこも」にちがいないと思うが、「すげ・菅」とも、全く無関係のものではあるまい。
「しげなしろ」正しくは「すげなわしろ・菅苗代」といって、昔は菅を栽培して作ったのが、「すげ笠」「みだら」などである。
現今でも、地方によっては栽培しているそうだ。
「みだら・にだら」は、雨中で田植えなどする場合は、最も重宝がられたもので、一種の「コモ」のような「みの・蓑」である。
これは、第一に軽い。第二に雨を走らせるただし、最近の、ナイロン製のものにはかなわないようだ。

次に各種の呼び名と意味について。
1.ガズギ=方言。真菰。秋田県南秋田郡・仙北郡・雄勝郡(平凡社大辞典・第六巻)
2.がつぎ=まこも。庄内。
3.がしも=まこも。富山県。
4.がッこ=まこも。宮城。
5.かつみ=まこも。陸奥。
これについて大言海には、……真菰の異名。花の咲きたるを「はなかつみ」という。
童蒙抄巻七に「はなかつみとは、花咲きたるコモ(菰)をいう。彼の国(陸奥・みちのく)の風俗にて、かつみとは、コモをいうなりと。
また。能因歌枕にも、同じことが書かれている。
○万葉集巻四
ヲミナヘシ 咲沢ニ生フル 花勝美 カツテモ知ラヌ恋ヒモスルカナ。
○古今集巻十四・恋四
みちのくの 浅香の沼の はなつかみ かつ見る人に恋ひやわたらん(浅香の沼は福島県安積郡)
6.かつも=真薦。まこも。群馬県勢多郡。
7.こもがや=菰(こも)。阿波の国。こもぐさ(仙台)
8.真薦刈 大野川原之 水隠 恋来之妹之 紐解吾者 まこも刈る 大野川原の みごもりに 恋ひ来し妹の紐解く吾は
このの歌の意味は、=人目を忍んで、永い間恋いこがれていた、いとしいこの女の衣の紐を解いて、我は今夜初めて共寝をするよ。
万葉集巻十一・二七〇三「寄物陳思」の歌の一つ。
大和の法隆寺あたりの大野川原は「まこも」の産地。
よって「まこも刈る」は大野川原の枕詞。
初句から「水」までは「隠」の序詞。「
隠」は「人目をさける」という意味である。
9.和名抄十四、坐臥具の部に「薦・こも・古毛」とありなお、萱・葦・よし・あし・苫(とま)・菰・「ノマ」・莚等の区別については後の項で。



その230 「かしべ」(1)

 名詞(魚の名)。かしべ。かすべ。
筆者はこのものの学名は分かりかねる。
辞典等によると、「粕倍・エヒ・がんきえい」とか、または、「王余魚・かれい」などとあるが、新聞の相場欄「鮮魚」の部をみても、やはり「カスベ」である。
三十五・六前の小学校の先生が、地理の授業時間に、「北海道の地形はカスベに似ている」とか、「だから北海道の海岸から、カスベもたくさんとれる」などと教えてくれたものであるが、それから現在に至るまで、「カスベ」ついての筆者の知識は、一向に進歩していない。
「かすべのともあえ食って腹やんだ。」などともよく聞かされる。
これは、「かすべ」のアブラなどで、大根やゴボウの類をアエたもの。
妙にうまいが、よくあてられることがある。



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