[連載] | |
241 〜 250 ( 鳴海 助一 ) |
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その241 「かッつぎ」 名詞(農耕用語)。かっつぎ「ぎ」は普通濁音。 これは、夏の頃、葉のついたままの木の枝などを、苗代に敷き浸して、腐ってからその枝を取り除くつまり葉が、いわいる緑肥となるのであるが、この肥料にする木の枝を、「かっつぎ」という(ところによっては、普通の雑草を刈り取って入れる、それをも「かっつぎ」と呼ぶそうだ)。 普通の草よりは、木の葉の方がききめはある。 木の枝が、集落近くに、特に各自所有のものは、そんなにあるわけもないので、わざわざ、一日一往復しか出来ない、遠い山から運ぶのである。 昔は一日、馬一駄、今は、種々の車があるから、楽に持って来れるのであるが、交通が進歩するにつれて、なんのかんのと、弊害もあるとかで、苗代の「かっつぎ」はあまりみられなくなった。 ▲大辞典には「カッチキ」方言。岩手県上閉伊郡・信州上田市府近・静岡県庵原郡・茨城県久慈郡。 方言辞典には、外に、青森・秋田・福島・長野とある。 語源は、第三次的のものと思われる「刈り敷き」であろう。 「り」が促音となり、「し」が「ち・つ」になるのは方言では普通のこと。 その242 「かッつ(ち)」 名詞。かっつ。奥地、奥山、川の上流、地方などの意味。 「甲地村」などの「かっち」は、おそらくこの意味であろうと思う。 ※ジットかッつマデエガナェバ、エタゲノゴダバトラエナェネ。(フギ・ミンジなども同じ) ○ずうと(深山)まで行かなければ、本物のいい竹の子は採られませんよ。 ※ジットかッちノホチャ、ヨメネケドヤタキャ、ソエデモ、ナェダキャエドメデ、エッシュコナェネ。 ○ずうっと山奥へ、嫁にくれてやったら、それでも、住みなれたらいいと見えて、この頃はさっぱり遊びにも来なくなりましたよ。 ▲「かっち」の語源は分からない。 あるいは「奥地」か。大辞典には、方言。 1.川上の地。青森県津軽地方・岩手県柴波郡・上閉伊郡。 2.深山・谷間・山間。青森県南部地方・津軽地方とある。 その243 「かッちャ(かッぱ)」 名詞。裏。裏がえし。 ひっくり返る等の意味。 「かッちャまぐり」ともいうことがある。 「逆に・あべこべ」の意。 ※シラミキモノ、かッちャネシタェンタデァ。 ※ハオリカッちャネキル(あわて者) ※ナマダ、カミノ「シギカチャ」モシラナェナ。 ○お前はまた、紙の表裏も見分けがつかないのか。 その244 「かちャぐ」 動詞(ガ行四段活用)。 略名(動ガ四)かちャぐ。 これは、「爪をたてて引っ掻く」ということ。 普通(カユ)いところを「掻く」という、その「かく」ことには、「かっちゃぐ」とはいわない。 「かっちゃぐ」の語源は「掻き破(裂)く」である。だから、「掻く」動作よりは、一層荒々しい動作の場合に用いる。 ※ネゴネカテ、シネカラかちャがエダ。 ○猫に、脛(すね)を引っ掻かれた。 ※オメ、ツラドシタンダバ。マンダカガネカテかちャがエダデナェナ。 ○あなた、顔どうしたんです。 形容詞。かちャぺなェ。 貧弱だ。か弱い。 風采が上らない。 かちョぺなェ。ともいう。 ※エマキタケンサニァ、かちョぺなェフトコダナ。 ○今度来た(転任して来た)検査員は、風采の悪い方だね。(まず、背も低くて) 右の産米検査員は、情実(なれあい)を避けるためか、その検査員が、しばしばかわったもので「今度来る検査員は、どんな人だろうか」とは、農家の誰もが関心をもっていたものだ。 そこで初めて会った人が、メタネかちャぺなェ人コダデァ」などと噂をするのである。 ※ヨベラノヨメコァ、かちャぺなェオナゴダナ。 ○ゆうべ来たお嫁さん、ちょっと小柄な方だねェ。 ※コシタラダかちャぺなェエコツケデ、コレダバ、シングネ、オチョエルバネナ。 ○こんな貧弱な(か弱)柄(鍬などの)をつけて、これなら、すぐ折れてしまうでしょうよ。 その246 「かちャぺなェ」(2) ▲「かちャぺなェ」の語源については、いろいろ考えられるが、とりあえず、それに関係があると思われる、他県の方言を若干あげて参考としたい。 1.ガンジヨ=やせ馬。青森県。老馬。岩手・宮城。 2.ガンジヨウバ=やせ馬。津軽地方。 3.カンシヨウレイ=やせている者。信濃の国。 4.チヨロイ=弱い・弱々しい。「チョロイ柱」。静岡・奈良・和歌山・京都・大阪・兵庫県佐用郡。 5.ヤジヨウナイ=か弱い。愛媛県大三島。 6.カンチヨロ=脆弱(ゼイジャク)。鳥取県。病弱者。壱岐。やせ者。大阪。 7.カンチヨラ=物の少なくなること。京都・伊勢。 8.カンチヨウ=細い・弱い・病弱者。岐阜県。 9.カンチヨロイ=細っこい・かよわい。長野・京都。 10.カンチヨウライ=粗略・幼稚・薄弱。島根県鹿足。 以上の例をみるに、まず「やせ馬」を「ガンジョ馬」というのは、津軽だけでないこと。 3の「ショ」も、これに関係があるとみられること。 さらに、この「ショ」はサ行タ行相通で、「チョ」にもなること。 そこで6から10までの各語と密接な関係があることが分かる。 津軽の「カンチヨペナエ」は、決して孤立したものではない、ということの証拠である。 その247 「かッちャまし(す)」 動詞。サ行四段活用。この語の意味は、「掻き廻わすこと」である。「乱雑にする」ことである。 「カチャマシイ(形容詞)」とはちがうとみる。 これは、アンジマシイ(形)とアンジマス(案じ廻わす・考えめぐらす)とを、区別したのと同じ。 筆者はそう信じている。 ※サカダェナェグナレバ、カガエナェコメェネ、タンスマデかちャますジャネソロ。 ○酒代が無くなれば、細君の留守をねらって、箪笥まで掻き廻わすんだそうだよ。ほんにまあ……。 ※ワラハドァ、ツクエ、グットかちャましテシマタ。 ○子供等が、机の引き出しを、すっかり掻き廻わしてしまった。 (机の中を乱雑にしてしまった) ▲「かき」の「き」が「促音」の「ツ」になるのは普通だが、その「ツ」はタ行の音だから、「まわす」の「マ」と続いて「ツマ」、それが「チャマ」と訛るのである。 そとで「かちャまし」または、それに接頭語のように「かっ」が再びついた形で、「かっちャます」となる。 新潟県頸城地方では、「かきまわす」を「かェまうす」というそうだが、津軽にも「かます」という、同じ意味の語も勿論あるがこの二つの系統の語が、津軽には存在するのだと筆者は考える。 その248 「かちャくちャなェ」 形容詞。かちャくちャなェ。 意味は、 1)憂ウツなさま。くしゃくしゃする。 2)物ごとがこんがらかる。複雑な事情。 3)不確かなこと。頼りにならぬ。不安。 4)方法・手段がない。 5)以上のうち2つ、あるいは3つを含むような場合。 ※ドヘバエガサ、コヘバエガサ、かちャくちゃなェぐナタデァ。 ○どうすればいいのか、(こうすればいいのか)どうにもしょうがなくなった。 ※アノオナゴァ、かちャくちャなェコゴロモジダ。 ○あの女の心(性格)は、ちっともとりどころがない。 ※かちャくちャなェ総会だ。 ……天気だ。……話だ。……役場だ。……学校だ。……新聞だ。 このように、いろいろ広く用いる。 集まるべき人数がちっとも集まらないとか、時間がメチャクチャだとか、ダラダラガヤガヤ、ちっとも相談がまとまらない、といったような場合、「カチャクチャナェ」総会だ。という。 降ったりはれたり一日中グズツイた天気などの形容には、最も適した言い方。 その249 「かつくつど」 副詞。かつくつど。 これは、前項の語が副詞となったもの。 「カチャクチャド」のさらに訛ったものとみる。意味もそれとほとんど同じ。 ※オヤジァニュエンシドユウ、アニァシゴドァナェドユウ、アネァ、ワラシモタドユウ、ホントネ、ワフトリデ、「ドヘバエガサ、カヘバエガサ」かつくつーどナルデァ。 〇亭主が入院するという、(するやら)長男の仕事が(職が)ないという、長男の嫁がお産するという……わたしひとりで、どうにもこうにも……ほんとうに狂いそうですよ。 ※かつくつサ棒通したェンた。(津軽のことわざ) こは、ひどくイライラする、クシャクシャする。苦労や心配が重なり合う、というような場合の言い方(表現)で……。粗雑な語調だが、おもしろい表現だともいえよう。 ▲「かちャくちャ」の語源については、にわかに確言は出来ないが、試みに二・三の参考事項をあげてみよう。 1.まず「かちャくちャ」の「ちャ」について。この拗音(ねじれた音という意味。 直音というのに対していうヨウオンと読む)は、漢字音では、不思議にも、「茶」の音だけのようだ。 しかも、その「チャ」も、漢字音本来のものではなく、「通音」ということになっており本元の音は、「タ・サ」であるという。 つまり古代の音は、「タ・サ」であったのが、年代を経るにつれて、いつしか「チャ」に変わったというのである。 2.次に、我が国語の音訓では、「ちャ」がたくさんあるが、その大半は「た・さ」から転訛したものだ、と考えられる。 辞典によってみても、「チャ」のつく語は、「茶」に関するものの外は、大ていこの転訛とみるべき語が多い。 接尾語の「何々様・……さま」も、「さん・ちゃん」となったとみられるし、「さっさと」が「チャッチャド」となり、「そうさ」が「そうじゃ」となり「散々・サンザンに」が、方言の「サンヂャコヂャネ」となるなど、ほとんど無数にある。 3.滅茶苦茶(目茶苦茶)は、「メチャクチャ」と読むが、もちろん当て字である。 「チャ」も「めためた」が「めちゃめちゃ」となるように、本元は「タ」であったらしい。 「クチャ」も、腐・朽(クサル・クサス・クチル・クタス)であり「クタクタ・クサクサ」「クチャクチャ・クシャクシャ」と転訛する。 4.「茶・タ・サ」の例としては「荼毘・ダビ」(火葬のこと)があり、「茶飯事・サハンジ」「喫茶店・キッサテン」「茶話会・サワカイ」等があり、古代の音の名残りを止めているものが多い。 その他省略。 5.要するに、「かちャくちャ」の語源?は、「くた・くちャ」であろう。 「くしゃくしゃ」と同じく、「くちゃくちゃ」だのを、「かちゃかちゃ」と転訛したものにちがいない前出の「かちャまし」の「かちャ」とも、かならず関係があるとみる。 その250 「かッて・かて」 小詞。特にアクセントは認められない。 意味は「……のために」である。 ここに「小詞」とは普通の品詞の、どの仲間にも入れられないようなものを指す。 助詞・助動詞・接辞のどれかに入れることのできるのもあるが、一括して、「小詞」といっている。 例えば、津軽ことばで言えば、「ソダハデ・ソダバテ・コレンキ・ソレバコ・アレダキャ」等、みな「小詞」というこれ等の意味は、上から順に「ソレダカラ・……ダケレドモ・コレダケ・ソレダケ(少ない)・アイッナンカ」となる。 「かッて・かて」もその小詞だというわけ。 ※アレネかてマゲダ。サゲネかてノマエル。 ○あの人のために負けた。酒のために呑まれる。 ※オナゴネカテノマエダ。キシャチンネかてコマル。 ○女のために財産を失った。汽車賃に困る。 津軽のことばTOP |
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