[連載]

  281 ~ 290       ( 鳴海 助一 )


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その281
「からがぐ」(1)

動詞ガ行四段。からがぐ。

「が」は鼻濁音。門構え(もんがまえ)の「が」のように。

意味は、からみつける。結わいる・結う。結びつける・結ぶ。

※ダンブリノオパコ、イドコデからがェデケロ。

○トンボのしっぽを、糸で結んで下さい。(幼童)

※釘ウジヨリモ、なわからがぎノホァエガベネ。

○釘で打ちつけるよりも、縄でゆわいた方が、いいでしょ。(簡単な小屋掛けや、囲いなどの場合)

※ナンボガマデネ、からがえデヨコシタマンダガサ、チョコヤコド、ホドサエナェデァ。

○どんなに丁寧に、ゆわいてよこしたものか、なかなかすぐには、(チョットヤソットデは)ほどけないよ

※エジミデモ、カミ、ギリットからがえデ、エフリモシデナェ。タンダ、シゴドエッポンダオン。

○いつ見ても、髪をギュウッと結って、おシャレもするでなし、ただもう、仕事だけに熱心でサ。



その282
「からがぐ」(2)


▲「からがく」の二次的語源は、「絡み掻く」であろう。

「からむ」は「結ぶ」より、はるかに実態に即していて実感がある。

それに、クモの巣を掻く・左官が壁下地を掻く(構く)・橋を架く・小屋を掛く等の「かく」が熟合して、「からみかく」となる。

その中略が「からがく」であるとみる。それで、どうしても「結ぶ」「結う」「しばる」よりは、この方が実感がこもっているわけである

方言か知らぬが、なくしたくない言葉の一つであると思う。

この語の使用範囲は、北海道(松前)・仙台・新潟・岩手・秋田、それに青森県となっているが、家屋や小屋・囲いなどの建て方や、材料などに、まだ大分原始的なものが残っていると考えられる、北国だけに、この「からがく」が残っていることは、注意すべきことである。

なお、この語から転訛したものに、同じ動詞の「からがェる」もある。

これは着物の裾などを「端折る」というのに、「着物の裾からげる」などいう。

「端折る」のには、別に「かっくらげる」という言い方もあるが。



その283
「からくじ」


名詞。からくじ。空口。無駄口。口答え。

反抗する意味で、口を返すこと。へらず口。

※マアコナシァ、オドナサからくじキデ。

○まあこの子は、おとなに向かって口を返して。

※からくじバレ、テエッパェエデバ、テアシァエモダ。

○あの男は、口先だけは、りっぱなことを言うけれども、手足が動かない。(実行が伴なわない)


※ガッコサウッテハェタキャ、コンダ、オヤサ、からくじグェンネナタナ。マアエガベ。

○学校にうんと入ったら、こんど、親に向かって、口答えするようになったか……。

まァいいでしょう……。

※アノセンセァ、からくじァエグナェシテ。

○あの先生(教員・医者)は、言う事が横柄で。(口が荒いこと。または、他人を下目にみていうことなど)



その284
「からこッぺ」(1)


 形容動詞。からこッぺ。この語の意味は、小ざかしいこと。
小癪な振舞をする人。出すぎた行いをすること。
ませた人。こましゃくれた言動。そんな態度を形容する語であり、または、そんな人そのものを指すこともある。
似た言葉に、「えげじャがし」があるが、それは「え」の部で述べた。

※アノオドゴァ、チサェカラ、からこッぺでエタキャトシァエテモ、ヤパリ、ツトサガシシゲルデア。

○あの男は、小さい時から、ませて、小癪であったが(小ざかしくてあったが)大人になっても、やはり……少し「利口すぎる」ネェ。

※アノママタギァ、アンマリからこっぺだデァ。

○あの女中さんは、あんまりサカシすぎますよ。

※ワラシァ、アンマリからこっぺだバ、シギデナェ。

○子供が、あんまり老成ぶっているのは、嫌いだね。



その285
「からこッぺ」(2)


 ▲「からこっぺ」の語源ははっきりしない。
「から」は空・虚・無駄などからきたもので、多分に接頭語化して、同時に、その意味も卑語に近くなったもの、とみることには間違いないようだ。
次に、「こッペ」の「こッ」は「小・子」であろう。
「ぺ」は「帯びる」などから転訛したもので、そのような様子、そのような風体、というような意味である。
例えば「大人ぶる・都会ぶる・へなぶる・田舎びる」などの「びる」はそれである。
そこで「こッぺ」の語源を、二次乃至三次的には、「こびる」つまり「小びる」だと見当をつける。
次に、大言海の説を借用しながら述べてみる。
すなわち同書二巻三四三頁に、「こびる」の意味として、①小さく細る、伸びずしてあり。
コビレル。静岡県にて、小男を「小びた男」という。
卑語の「小女」を、「コビッチョ」というのは「こび女」である。
あまっちょ女の卑称も同じ)。②の意味として、コマシャクレル・ナマイキ云々とある。
ここにおいて、「こッぺ」は、「こぴっちょ」などの転訛だということは、一応考えられると思う。
次に各地の方言をしらべてみる。
①こーへー・こーへる=老成。対馬。

②こーべッたい=ませている。なまいき。三河。

③こびる=こましゃくれる。仙台・山形県米沢。

④こばくれる=気がきく。こましゃくれる。岡山。

⑤こんびい=小さい。山口県祝島。

⑥こんびんくさい=大人くさい。新潟県。

⑦こッぺちョる=ませている。岐阜県山県郡・愛知。

⑧こッぺーもの=追従かましい多弁者(おしゃべり)坂東。小才子の意味として。千葉県安房郡。

⑨こッぺろく=物事に通じた人。奈良県吉野郡。ませた子の意味として。三重県北ムロ郡。

上の例によって、津軽の「こッぺ」は決して孤立したものでないということ、「小びる」がその本元であることなどが了解出来ると思う。
なお、津軽の「ゴッペカェシタ」の意味も、極めて明瞭になる。
つまり「あんまり小ざかしく振舞って、却って失敗した」というのがその原意である。


その286
「からぐり・からぐる」


 動詞。名詞。からぐる。からぐり。
意味は、
①不如意ななかで、いろいろと、やり繰りすること。
②いろいろと、かれこれ頭をつかって、修理修繕などをして、間に合わせること。
「からぐり」は、その名詞形(連用形)だから、転成の名詞となっただけで、意味は大たい同じ。
たとえば、「曇る」と「曇り」。「笑う」と「笑い」。「あざける」と「あざけり」のように。

※アノオナゴァ、ベンチャラバレエタテ、ワラハドノヘンダクモノモ、からぐえナェジァネ。
○あの女は、おしゃべりは、達者だけれども、自分の子供たちの着物も、ろくに繕えないんだとサ。

※コトシエジネン、ドダリカダリ、からくてキル。
○今年一年、また、どうにかこうにか、繕って着る。

※オマェマダ、ソレァナェノ、コレァナェノタテ。からぐりァエシテ、リッパダモノァデギダデバ。
○あんたはねェ、板が足りないの、金網が無いのたって、やりくりがうまくて、立派な鶏小屋が出来上ったじゃありませんか。
大したもんですねェ。
この外に、「陰で、こっそり悪事をやっていること」なども「からぐり」ということもある。

▲「からぐり」は、「絡み操る」であろう。早い話が、操り人形(浄瑠リ)の「アヤツル」である。
たくさんの糸や針金や何かで操作する。
というのが、この「からくる」の意味。
転じて、やりくり算段する意となり、陰謀などの意ともなる。
また、修理・修繕(一時の間に合わせ的な)の意ともなる。津軽の言葉に、似たようなものとして、「くすぐる」がある。
「ぐ」は普通の濁音。やはり、修理する。
一時的な繕い、というほどの意味。



その287
「からし(す)」


名詞。からし。

これは、物忘れすること。

また、その人をいう。

自分でもいい。

他人のことをもいう。

※ワ、からしダドゴデ、キデモ、シングネワシエルハデ、カミコサ、カェデエテケロジャ。

○わたしは、物忘れする性で、聞いても、すぐ忘れるから、この紙に書いていって下さい。

※オマェモマダからしダデァ。コゴネアルデバナ。

○あんたも、また忘れっぽい人だね。ちゃんとここにおいてあるんじゃないか。(神棚の上とかに)

▲胴忘れする人を、「からし」というのは、これこそ津軽だけのことだと思ったら、他地方にも、また標準語の言い方にもあるようだ。

「からし」は、もちろん、「からす・烏」で、この烏は、せっかく見つけた餌を、よく置き忘れるということから、物忘れする人を、そう呼ぶようになった。

方言辞典には、静岡・山口県大島。

阿呆・ばかの意味として和歌山、があげられているだけで、青森県とも津軽とも出ていない。



その288
「からへ」


 名詞。からへ。
幹背(カラセ)のことで、身長または、背丈の意味。
「から」は、麦幹・稲幹・からだ・人柄・身柄・家柄などの「から」であり、胴体のことにもなる。
人の「からだ」は、「幹立・からだち」の下略であるという。たとえば、木の枝の「えだ」も、語源は「枝立・エダチ」の下略であるように。
なるほど古代には「枝」は「エ」とも読んだようだ。
人の名前にも「枝直」と書いて「えなお」と呼ぶのがある。
十二支と十干の「干支」も、当て字か知らぬが、「エト」と読むし、鍬や鎌の柄も「エ」というのは、枝・肢と全く同じ語族だからである。

※からヘァエカワリニ、ヤパリシゴドモエデァ。
○身体が丈夫なだけに、やはり仕事もよくやるよ。

※マダ、ミコァハナェドモ、からへダバフトリマェダオヤジヨリ、オガタェンタデバ。
○年が若いから、からだに厚味はないけれども、身長なら一人前だよ。
お父さんよりも高いんでしょうねェ。

※からへバレオキタテ、ナンネモナナェデァ。
○図体ばかり大きくても、何の役にも立たないよ。

この「図体」は、「胴体」の訛りから、文字まで変わったのだという。
「からへ」は、同じく津軽方言の「ジャマ」と、ほとんど同じ意味である。
これは「ざま・態」の訛り。



その289
「からへべこ」


 名詞。からへべこ。
これは、同じく方言の「かなへび」の、さらに訛ったものであろう。
「から」は「かな」の転訛とみる。
「かな」は、前述のように、か弱い・か細い・貧弱などの意味をもつ、接頭語である。
だから「蛇」の小さなもの、または「蛇のまがい」といったような意味があるらしい。
さて「からへベコ」は、「とかげ」のこと。



その290
「かれご」


 名詞。かれご。借子。仮子。
主として農家の奉公人で、男子のことをいう。
女の奉公人も、もちろんあるが、大ていは、家庭内の軽い作業や、炊事、子守りなどをする。
たまに女でも田畑に出て、年中男の人達と同じ作業をする者もあるが、それを特に「女借子・オナゴカレゴ」ということもある。
これは皆住み込みである。
また、「夫婦ガレゴ」といって、中年の夫婦が、適当な寝所をあてがわれて、一つ家に寝起きして二年とか三年とか期限づきで雇われる場合もある。
この場合、女の方は主として女中、(召使い・アダコ)としての仕事にあたる。
召使いは別にやとって、この夫婦たちは、田畑の仕事の「先だち」となる場合もあり、その雇い主の都合で、いろいろである。
さて、借子の年期は満一ケ年で、大てい陰暦の十月十四日が、年期満了の日。
約十日ぐらい休んで、十月二十五・六日には、次年度の分として、再び働きに行く。
同じ家に続けて雇われる場合は、秋仕舞の都合とか何かで、僅か四・五日休んだだけで、連れて行かれることもある。
そして、行ったら最期、まる一ケ年の間、盆正月の外は、ほとんど、自分の日ということもなくて、働き続けるのである。
賃金は、例外なしに「玄米」で支払われる。
大ていは、最初に全額渡したようだ。
おおよその基準は、十四・五才は、一ケ年玄米六斗から一石ぐらい。
十六・七才で三俵から五俵ぐらいまで次二十才頃までは六、七俵から八・九俵まで。それ以上になると、「上カレゴ」といって、十俵以上になる。
「上カレゴ」ともなると、一年中のあらゆる作業が一人前以上でなければならない。
田打ちも、田砕きも、草取りも、稲刈りも、一人役(約一反歩)の仕事が楽なくらいに。
また農閑期の作業として、ムシロ織り、コモ編み、俵編みなど、凡そ如何なる作業も一人前でなければいけない。
こうなると、十二・三俵という最高の給料も得られるが、そんな人は、いくらもなかったようだ(以下省略)。



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