[連載]

   331~340       ( 鳴海 助一 )


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その331
「かべ」

 名詞。かべ。
これは珍しい言い方である。
稲を刈る時にいう。
刈った稲の束数(タバネカズ)のことである。
今でも、津軽の農夫たちはいうようだ。
特に老人層には多く用いられる。

※エネァツト、オッキャタドモ、ズンブ、かべダバカタベェ。フトレァグ三百島デ、キガナェベネ。
○稲が少し倒伏して、刈りにくいか知れないが、大した束ね数(島かず)刈ったでしょう。
一人役で、(約一反歩)三百島(一島は十把)以上でしょうよ。

「かべ」刈るとは、収穫が多いことである。
大ていは稲のクキが太く、株も大きければ、「かべ」刈るのはもちろんだが、その束ね数に比例して、その割合に、米の収穫が多いとも限らない。
ワラが太ければ、一束に穂の数が少ないし、その穂も完全な籾が少ない場合もあるので……。
また品種にもよるので。
しかし、なんといっても、束数が多ければ多いに越したことはない。
三百島といえば、一人役十俵以上である。

昔は、束ねによって、二十島一俵二五島一俵と、きまっていたが。
今は、乾燥のことも考えて、一般に束ねが小さくなった。
だからいわゆる「かべがず」は多いわけ。
とにかく、農耕用の言葉として、「かべ」は珍しい。
▲「かべ」について、二三述べておきたい。
まず「かべ」といえば、「壁」のことであるが、その語源は「掻き・溝き・垣」の「かき」に、隔てるの「へ」がついて「垣隔・カキへ」、それが「かへ・かべ」となった、というのが通説であるが、これは信じていい。
つまり、太古には、木で作っても、石で築いても、材料の如何を問わず、内外を隔てるための障壁は、すべて「かべ」といったのである。
後世は、家屋などは主として「土」を用いるようになったので、「かべ」は即ち「壁」になった。
さてその壁は「土・泥土」だから、それから、水田の稲刈り時の「ドロンコ・ドロヒヂ」が壁苗代にも似ているので、「かべ刈る」とでもいうようになったものだろう。
佐渡島の方言に、「カベタ」というのがあって、水田の収穫を終えた、つまり「空いた田」のことだそうだし、千葉県でも「カベッタ」といって、稲を刈った後の、まだ耕さない(秋耕のことか)田のこと、とある(大辞典)。
これによっても、津軽の「かべ刈る」云々は、全く根拠のない言い方ではない。



その332
「がへ」
 名詞。がへ。力。体力。精力。
※オェノマ、がへァナェハデ、コノサカフトッツデオタテシマル。
(がへナェと同じ)
○俺(おれ)の馬は、体力がないから(弱いから)ここの坂を一つ登っただけで、疲れ切ってしまう。

※がへァエハデ、オナゴデモ、エネ、エジマロモンテオドゴンドドエッショネ、ドンドドアサグ。
○力が強いから、女でありながらも、稲を五丸も背おって、男達と一緒に、ドンドン歩いてくる。
「がへァエエ」は、同じく方言の「キツイ」と同じ。

▲津軽の方言のひどい訛りの一つとして、「せ」がほとんど「へ」になることである。
「ヘダシテアサゲ」「精出して歩け」。
「腹ァヘジナェ」は、「腹がせつない・苦しい」。
「がへ」も「がせい」。
「へ」は「せい」で精力の「精」に当たるが、「が」は何なのか分からない。
単なる接頭語でもなさそうだが。
がせ・がへは、津軽地方が一番。
次が東北各県。
次が、静岡県安倍郡など。



その333
「かまぐり」(1)
 名詞。これは、農耕作業用語の一つであり、水田の畦(あぜ)の両側面の、雑草を刈り取る作業のことである。
元来、水田の畦畔は、田に水を入れるために、また、水を流し出して乾かすために、さらに、もちろん歩行のためにも、一定の水量を永く保っておくためにも極めて大切な役割を果たしているものである。
これが崩れたり、軟らかかったりすれば、それらの役には立たないネヅミやモグラの穴があったりしても、もちろん、水の掛け引きが完全にいかない。
したがって、かならず、稲作に影響がある。
この畦を固くし、一定の高さと広さを保つためには、どうしても、草の根の力を借りなければならぬ。
ところが、この草を伸びほうだいにしておくと水田の中まで生え広がるし、また虫けらの巣クツにもなって、これもまたよくない。
そこで、かまぐりが必要となるのである。
畦の表面の草も一、二回は刈らねばならないが、この作業は、「くろ草を刈る」といって、「かまぐり」とは別である。
「かまぐり」は、側面の草を刈る、つまり、田の中に延びて行ったり、種子がこぼれたりするのを防ぐための作業である。
大てい第一回目は春先、田に水を入れて、荒掻きもすみ、中掻きの頃か、田植え直前の代掻き(しろかき)の頃かにする。
第二回目は、一番除草もすみ、二番除草の直前の頃。それに、稲刈りの頃、最後の「くろ草刈り」もするようであれば、畦畔は、まず大丈夫であろう。
それでも、翌年の春には、大分草の根が田の中にはびこっているので、雪の消えるのを待って、第一番にする作業が「太刀廻し」である。
ついでに、畦を修理するのが「くろ張り」である。
その他あるいは「長堤(ながで)」を繕い、畦を固め、ネズミの穴などを塞ぎ、高低をなおしたり……。
精農家といわれる人達は、まず、こんなことから、一分の隙もなく、水田を大切にするようだ。
さて、かまぐりも、不精な農夫はとかく省略する。
なるほど一年位手を抜いても、収穫には大てい影響もなさそうだが、一事が万事で、何かと粗略になるので、「田荒してしまた」(水田がやせて、米あがりが少ないこと)と非難もされ、収量もしたがって目立って減じるように必ずなる



その334
「かまぐり」(2)
 かまぐりは、もちろん「鎌」を用いるが、「砥石」を準備して、しょっちゅう砥がないと、仕事がうまくいかない。
ずんずん距離がはなれるから、砥ぐのに甚だ厄介である。
そこで、小さな砥石を左手に持っていて、切れなくなったところで、すぐ砥ぐというやり方。
または鎌を二・三丁準備して、一度に砥いでおいて、それで畦を一廻りするまで間に合わせる、というやり方など、「かまぐり」の語源は「鎌めぐり」の約言か、「鎌切り」の転訛か。
「かまぐり」という名称は、どの種の辞典にも見当らない。
津軽方言集、青森県方言何々といっても、このような稲作りの用語は、なかなか見当たらないようだ。
しかし、伝統的な津軽農民達の生活の実態など、詳しくさぐるためにも、文字に書き表わすことの、ほとんど稀なる。
これらの「語い」の研究も、極めて大切なことであると私は信じている。
方言を通して、一つには、民俗の生態史をも探究しようというのが、本稿の目的でもあるが、常に、紙数の増大を恐れつつも、敢えてくどくど申し述べる所以である。

※ミジ、タップトカガタ、タミナガラ、テンキャエジギ、かまぐりコマシテルジモ、エモンダキャナ……。
○水がたっぷりとカカッタ水田をみながら、お天気のいい時に(日に)、カマグリを廻しているのも、気持ちのいい作業ですナ……。
これは、毎年ややもすれば水不足で、ひどい苦労をするような水田を耕作している人のことで。
いいあんばいに、今年は気候も順調で、水の心配もなく、五人役とか七人役とかの、ひとつら(一連)の水田に、広々と、ナミナミと水がかかっている……。
みち足りたいい気持ちでお天気のいい日に、念入りに、一枚一枚と、かまぐりをマワシテいる農夫の姿は、まことに尊く美しい。ノミとツチを振るって大作にいどむ芸術家のソレと少しも変わるところがない……。

※カラポネヤンデ、かまぐりマサナェキャ、クロノソバクサバエデ、エネカルコトァナナェデァ。
○骨惜しみをして(怠けて)、カマグリを廻さないでいたら、アゼ近くが草ダラケで、稲を刈ることが出来ませんよ。
(刈取りが大へんはかどらないこと。)



その335
「かまし(す)」

 動詞四段。かまし。掻き廻す。めちゃくちゃにする。
※マンダ、ワノハリサシバゴ、かましタベ。
○また、わたしの針さし箱(お針箱)を、かきまわしたね。(小さい女の子などは、布切れや、美しいボタンや、何かに、心を引かれるもので、またお針の真似事をするためになど、母や姉たちのものを……)
※机かまして。タンスかまさえだ。飯かませ。
 この「タンス・箪笥」云々は、泥棒にやられた場合などにもいう。飯云々は、熱い中にかきまわすこと。
※キナ、フルマナガ、タンスかまされダジァネ。
○このう、日中、箪笥を掻き廻されたそうだよ。
※ミンナシテ、ソダノコンダノテ、グダメデラドドチャ、ワエテサベタキャ、ワネカテ、かまさェダ。
○みんなで、そうだのこうだのといって、不満や非難をしていたところへ、わしが行って、一々話して聞かせたらねぇ。みんなシーンとなりましたよ。
※苗代かます。田かます(除草のことにも)。キシビジ(米びつ、コメビツ)かます(これは米を盗むこと)。乾かした籾かます(春先など、莚に拡げて乾かしてある籾を時々かますこと)等々。
▲「かます」は、「掻き廻す」の略語であるが、掻き混ぜる意味の「カク拌」としても用いる。



その336
「かまし(す)おやじ」

 名詞。かましおやじ。
これは「ゴンボホルワラシ」「エグナェワラシ」「ナグワラシ」などを、おどかしたり、すかしたり、だまらせたりするための、一種の俗信(迷信)または方便からきた「仮想の人物」である。
山から来る「おいの」や、雪から出てくる「雪女」、あるいは「モッコ・ムジナ・タマシ」などと同じく、「かますおやじ」も、子供の頃は、ずいぶんこわくてあったものだ。
特に冬期間など子供は、所在なさに、また寒さのためにろくな遊び道具もない貧しい家の幼童らは、忙しい親達を、しょっちゅう手こずらかしたものだ。
そんなことから、かような仮想の魔物の力を借りて、子供らをだまらせたり、眠らせたりしたものだろう。
ただし、昔は実際に「野獣」の襲来もあったろうし、人さらいも、鬼悪魔の如き強盗やゆすりも居たろうから。
そして、無智な地方人には、そう信じたのも無理ないことである。ただ、むやみに子供らを臆病にし、おじ気つけたことは、甚だよくない。
筆者なども、この「かますおやじ」は、ほんとうにいるものと思った。
「たとえば冬の雪降る日に、雪囲いに下げてある、入口のコモをガサカサさせ、土間をドシンドシンと踏んで、着ているものも、冠ものも、モジャモジャと雪だらけのものが、「ダェダバ、ナェデラジャ」(誰ですか、泣いているのは……)などと、大声でどなるものだから……母や祖母が、「ソラ、カマスおやじァキタ」というし、涙ではっきりしないが、とにかく異様なもののように見え、大きな「カマス」も背負っていたようだし……。
実は、知り合いの誰かが、何か用足しにでも来たのを、子どもらの、ゴンボほってるのをきいて、入口でおどかしたのだが……。



その337
「かまねなる」

 動詞(連語)かまねなる。
これは、普通九十度内外の角度をなしているものにいう。
鎌の柄と刃は、大体九十度の角度をなしているところから、こういうようになったもの。
例えば、他人の畑(長方形とかの)二辺に、自分の畑がまたがっているような形の場合、「うちの畑はあそこ、かまになっているので……」などという。
また田植え女達が、ぞろぞろと畦を歩いているさまなどにもいう。
「雁」がたくさん並んでいくさまをみて、「さおになれ、かぎになれ」と謡うのもその「かぎ、鍵」は、鎌と同じく角度のことであろう。



その338
 「かまり」

 名詞。かまり。香気。におい。匂い。気。
普通鼻で感じる「におい」は効悪すべて「かまり」という外に、「火の気」など「火のかまり」といい、親類関係があることをも「おやぐかまりコァ」している仲だ、などともいう。
大して下品な方言でもないのだが、日本全国の中、青森・秋田・岩手の三県だけ(文献だけによると)とは、合点のいかないことである。
ただ「匂いをかぐ」ことの方言に、「かまる」というのが、青森県五戸・岩手・八丈島(大辞典)とある。

※メタネ、シナクサェかまりァシナ。ワラハドァ、コダジフンデラデナェナ。
○バカに、こげくさいニオイがするぜ。子どもらが、またコタツを(掛けものを)踏んでいるのではないかな。

※アサマカラ、かまり、ボウボドヤテアサェテラ。
○朝っぱらから、酒のにおいをプンプンさせて歩いているよ。

※アコドダキャ、アラ、サットかまりコァシテルバエデ、「オヤグ」デバオヤグ、エマダキャ、タニントフトジダネ。
○あそこのうちとは、わたしら、ちょっとした親類で親類といえば親類……、今ではもう、あかの他人と同じですよ。

※ナンボカ、シノかまりコァサナェバ、シゲナェ。
○いくらかでも、火の気がなければ、素気ない(さびしい)。



その339
「がめる」

 動詞。がめる。
これは、無理に奪う。欺いて取る。盗む。という意味に用いる。
※りんご一箱、がめらえ(れ)だ。
本二冊かめらえだ(図書館の)。
万年筆一本、がめらえだ(行商人)。

津軽では、人をだまして(欺)、金品を奪うことを「人をはめる」といい、そういう常習犯を「人はめ」という。
被害者の方からいうと、「あの人にはまった」とか「はめらえだ」とかとなる。
この「はまる」は、「計略」などに「引っかかる・陥入る・はまる」などの「はまる」で、それが、他動詞では「はめる」となる。
その「はめる」が「がめる」の本元らしい。

▲大辞典には、
①盗む。着服する。青森・宮城・山形・福島・愛媛・豊橋。
②私用する。秋田市。
③疲れる。閉口する。弱る。山形・神奈川・静岡・岡山・島根・出雲・隠岐島。とある。



その340
「からぽやみ」

 名詞(連語・句)。
からぽやみ。空骨病み。
怠け者。ごろつき。
「からぽねやみ」の略。
「骨休み」という語がある。
仕事に疲れた身体の痛みや凝りなどを、休めて癒やすことであろうが、それを、怠け者は、痛くもないのに、何かと口実をもうけては、仕事を休むということから、「空ぽね病み」つまり、仮病をつかう、といったような意味から、この言葉が出来たものだろう。

※アコノフトァ、ミンナからぽやみバエデ……。
○あそこの家の人達は、みんな怠け者ばかりで……。

※からぽねやんでラキャ、ヘンダグモノァタマテ……。
○この頃怠けていたので、洗濯物がたまって……。

※エノホウノ、コッチャァからぽやみデマナェ。
○うちの学校の、校長は、ルーズで駄目ですよ。

この語は、青森県全般と、秋田県北部が本場のようだ。
▲なお「からぽやみ」に類似した他県の方言を若干あげておく。
(全国で七・八十種もある中から)

①カバネヒキズリ=怠け者。宮城県玉造郡。
②カバネヤミ=骨惜み。仙台。宮城。福島。岩手。
③クサレモノ=福島県伊達郡。
④クライドーレ=怠け者。宮崎県椎楽・熊本。
⑤ケダイモノ=怠け者。伊豆八丈島。
 註 これはケ怠者(ケタイモノ)の濁音訛らしい。
⑥コエザレニンゲン=怠け者。群馬県邑楽郡。
⑦コダイクサレ=福島。
⑧ツバケ=青森・岩手県沼宮内。
⑨ホネコカシ=宮崎・山口県阿武郡・大分県大野郡。
⑩ホネヤミ・ホネヌスト=千葉県山武郡・大分県宇佐郡・仙台。



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