[連載]

   31 〜 40       ( 鳴海 助一 )


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◆その31
 「あらげなェ」(1)

 形容詞。あらげなェ。荒いこと。あらあらしいこと。粗末なこと。人の動作・ものの言い方その他広く用いられる。

※アノエササマ、あらげなェシテ。
○あのお医者さんは、治療が「あらッぽくて」ね。

※アノフトァ、クジァあらげなェンンダ。エグナェフトデモナェンドモナ。
○あの人は、口が荒い(悪い)よ。悪い人間でもないんだがねェ。

※ナダケェンネ、ソウあらげなェグヘバ、リンゴサキジァツデシマルネ、モシコシ、シナオネヤネガ。
○お前みたいに、そんなに「がむしャら」にすれば、りんごにキズがついてしまうよ、もう少しすなお(素直。ていねいに。注意して。)に仕事をしなさい。

※ナンダッテドウモ、あらげなエゴッツオデ、メヤグデシジャ。
○なにしろご覧のように、お粗末なご馳走で、失礼でございますよ。

※あらげなェ日だ。(雨風のひどい日など)



◆その32
 「あらげなェ」(2)

 この語の成立過程について、多少考えてみたい。まず純然たる方言又は土語ではないということは、どなたも気づくことであろう。 
 すなわち、「荒気なし」の口語が「荒気ない」であり、その訛ったものが、「あらげなェ」である。ただこの「なし・ない」が問題である。そもそもこの「ない」のは、だいたい四種あって次の通りである。

@雨が降らない。星が見えない。
A楽しくない。寒くない。よくない。
Bなさけない。そっけない。はかない。
Cあらけない。おぼつかない。はしたない。

 文法的な説明になって恐縮だが右の区別を簡単に。
 @の「ない」は、打消の助動詞である。だから「ぬ・ん」と取り替えることができる。「降らぬ・降らん」「星が見えぬ・星がちっとも見えん」等。
 Aの「ない」は、形容詞の「無い」である。その証拠には、「ぬ・ん」と替えることができない。
「楽しくぬ・寒くん」などとは言えない。
 Bの「ない」も、形容詞の「無い」であるが、これは「無い」の性格が、ややはっきりしているから見当がつく。つまり「なさけが無い・素気が無い・はか(あとはかのはか)が無い」というように、「無い」の本来の性格がわかる。
 Cの「ない」は、これが「あらげなェ」の「ない」。これは、助動詞の「ない」でもなければ、形容詞の「無い」でもない。少しめんどうになるが、実は古代 形容詞の「甚し」であり、「いたし」と読み、意味は「はなはだしい」である。その「いたし」の「い」が略されて「たし」となり、タ行ナ行相通の理によって 「なし」となり口語の「ない」となったもの。タ行ナ行相通のことは、前の「あしなか・あたか」でも述べたことだが、いまあげた「はなはだ」という語も、そ の原理によってできた語である。

 要するに「なさけない」の「ない」と、「あらけない」の「ない」とは、正反対の意味があり、片方は「無い」、片方は「有る」ということになる。

○なさけない=情が無い・薄情だ・つれない。
○あらけない=荒気がある・ひどくある。
○おぼつかない=おぼおぼしい・たよりない気持が甚だあるという意味になる?だから「不安だ・気にかかる」と訳すのではなかろうか。



◆その33
 「あらぐりかぐ」
 動詞。あらぐりかぐ。二語として、「あらぐり」を「かぐ」とみれば、わかりやすい。
 水田に苗を植える、つまり田植えの前に、昔はだいたい三回ぐらい、馬鍬でもって田掻きをした。この作業は、もちろん田に水を入れてからであって、その前に乾いた田をおこすのが第一番で、次に細かく砕く作業であり、それから水を入れる。
 ところでその、三回田掻きをするのに初めの作業を「あらがき」といい次の作業を「なががき」といい、最後の、つまり田植え直前のを「しろかぎ」といっ た。今は、他の土質が肥えてきているし、又細かに砕き、乾きもいいから「なかがぎ」は略すようだ。又、耕運機などで起こすのも、砕くのも、あらがきも、何 もかも一度にしてしまうやり方がボツボツみえてきた。進歩であろうか。ところでその、「あらがき」のことを、「あらぐり」というのである。田植えの 「しろかぎ」とちがって、畦から溢れるくらい水が入っているので、馬のサシトリ(かじとり)などは、つらい仕事である。朝のうちは、水が骨まで泌みるよう に冷たいのに、いきなり頭からシブキを浴びせられ、一日一ぱい、春風に吹きさらされながら、泥田を歩き廻るのだから、その苦しみは言語に絶する。ところが 都会の人がこの「あらぐりかぎ」をみて、「あの棒たなぎにも、めしを食わせるのか」と言ったそうだ。棒たなぎとは「サシトリ」のことである。「たなぐ」は 「手に持つ」ということだが、ここでは、ひじょうに楽な仕事の意味にもなり、「あんな楽なことをやっている者にも、ごはんを普通に食べさせるのかねェ」と あざけった。というのである。
 これは笑いごとではない。すべてこの世の、二つのものの対立や、誤解や、不和・闘争の、由って来るところのものは、かくの如き、他人の仕事や、職業や、立場に対する無関心・無理解にあると思うからである。

△「あらぐり」の語源は、最近まで私は不明であったが、「あら」は前述の「粗」「荒」に関係があり、「あらけずり」の「あら」と同じだと思われるし、「ぐり」は「くれ」で、「土塊」のことであると断定したいが、どうであろうか。小学校の教科書の中に、
 「親はかえして、子はくれ打って……」という詩の文句があったようだが、その「くれ」のこと。「かえして」とは、土を掘りかえすこと。結局「あらぐりかぐ」は、最初大きな土くれ(土塊)を大ざっぱにこなす(耕やす)という意味である。



◆その34
 「あれァなェ」
 形容詞。「あれァなェ」と、中の高さに発音する。これは津軽方言の特殊なものであるが、語源は残念ながら、研究しかねている。
 意味は、気にかかる。不安だ。ふびんだ。あぶながってはらはらする。そわそわする等で、広く用いられる。「あれァなェがる」という動詞も全く同じ。

※イヌケンクゎ、あれァなェシテミデエラェナェ。
○犬けんかは、かあいそうで、見ていられません。

※トンリァクゎンジノジギ、ナンボあれァなェシテエタガサ。
○隣りが火事の時、ナンボこわくてあったか。

※オヤジァケンクヮシテ、カガあれァなェがテ。
○亭主が酔って、他人へけんかを吹っかける時など、女房は、実にあれァなェ。(観桜会やお祭りなどで



◆その35
 「あんこ」(1)
 名詞(人称)。意味は@上流家庭の総領・長男・跡継ぎの呼び名。A上中を問わず、他人の長男、もしくは広く男の子の呼び名(敬称・親称)。B青年中年の 男子を、多少軽蔑していう時の呼称(卑称)である。@の場合は3.40年前には、戸数2百ぐらいの私の部落では、いわゆる(おおやけ)といわれる4,5軒 と、駐在巡査と長男とだけが、「あんこ」と呼ばれたようだ。Aは、主としてその子の親族の居る前で用いられる。Bは卑称で、青二才とか、小僧とかの意味。

※○○ノあんこド、ダンナサマノあんこド、マジノガッコサ、ハッタジデァ。
○何某の長男と、駐在のムシコ(息子)さんと、町の(ここでは弘前)中学校に合格したそうだよ。

※オヤオヤ、コレァオマェダジノあんこデシナ、エットマミナェデラコマェニ、オガタデバシー。
○まあ、このかた、あんたたちの大きいお子さんでしたか、ちょっと見ないでいるうちに、大きくなりましたねェ。

※アノツモ(ボ)カネカテ、アダマガラあんこカゲラェダネ、エジカ、ケシトテケルァハデ。
○あいつのために、いきなり小僧呼ばわりされたよ。くやしい。いつか、かたきをとってやるから。



◆その36
 「あんこ」(2)

 △語源について簡単に。いつであったか、相当な識者から「吾子」の音便ではないか、といわれたことがあるが納得し かねる。やはり「あねこ」と同じく「あにこ・兄子・阿兄子」の「あにこ」の音便だとみたい。「に」のハツ・バツ・音便は「ん」である。(ハツ・バツ は、手へんに発をかく)。
 たとえば、死にて=死んで、なにと=なんと、かにはざくら=かんばざくら・かんば・かば(樺)のように、ただし、「に」「み」等のハツ音便の場合は、か ならず、その下の音が濁音に変るのであるが、「あんこ」は「ご」と濁らないから、その点の多少の疑問はある。(活用言以外は、濁らぬ場合もあるようだ) 「吾子」説も捨てがたい。けれども、他人の子の敬称ともなるので、そこが賛成しかねるところである。なお、「あんこ」が卑称ともなるのは、やはり時代の相 違で、下層階級もしくは一般大衆が勢力を得てくると、階級語の差が少なくなる。室町時代以後、江戸時代を通じて、公卿や大名や武士などを茶化したり、無力 者扱いしたりして、通俗文芸作品が如何に多くあらわれたかを思うとき、そのことがうなずかれるであろう。「おおやけのあんこ」も、たまには「世間知らず・ おろかもの」も、居ったのか。「村夫子・先生と言われるほどの馬鹿でなし」などと似た言い方も出てくるのである。
 あんさま・あんさ・あんちゃ・あんちょ・あんぺ
 アクセントは、あんさま・あんちゃ・あんちょ(中の高さ)・あんぺ(上の高さ)・いずれも「あんこ」と同じ仲間の、名詞(人称)である。



◆その37
 「あんさま あんさ」

 やはり、上流家庭の長男の呼び名で、息子さん・おにいさん・にいさん・兄上さま。「あにさま」から来たものであろ う。これは、津軽で、知っている限りでは「あんこ」のように「卑称」には使わないようである。そして「あんさま」の方は、年齢的に少し上のようだし、地位 も高く、使用範囲も広いようだ。つまり、大家の若主人を地の人が呼ぶとき、妻が夫君を呼ぶときなど。現に当地方でも聞かれる。参考までに他県の例をあげよ う。

 あんさま @兄様=石巻市・山形県・北飛騨・石川県。A長男=秋田県北部・山形県・会津地方・新潟県・北飛騨。B町家にて「あなた」主人=越前の国等。
 あんさん @兄さん=秋田南地方・宮城・佐渡・福井県・和歌山県の一部・隠岐・宮崎その他。A妻が夫を=佐渡・福井市・滋賀湖南地方・奈良・大阪等。Bお馬鹿さん=愛知県南知多地方・鹿児島県山谷町。以上。

△以上の例をみて、気がつくことを少し、東北と関西以南との音韻上の区別の重要なものとして、打消の助動詞の「ない」と「ぬ・ん」との用法の区別があげら れるが、前者は東北に、後者は関西以南に用いられるとされている。「君はまだ帰らないのか」は東北。「僕はまだ帰らん」は関西。「あんさま」と「あんさ ん」の使用区域がこれとほぼ一致していることは、注意すべきことであろうと思う。
 さて、「あんさま・あんさん」の外に、他県にも「あんさ」があり、別にまた「アンニャ・アンニャ-」等があり前の意味の外に「お前・下男・姉・遊女・子守女」等に用いられるそうである。(大辞典)



◆その38
 「あんちゃ・ あんちょ」

 これも、「あんさま」とだいたい同じ意味であり、他県のも同様であるが、津軽では、「あんさま・あんこ」より、少 し位が低いようである。使用区域も、北海道・東北地方に多く静岡県・遠州あたりに少し。また「あんちょ」は、本県以外ではいわないようであるが、訛りがひ どいところをみると、そうかも知れない。

△サ行ダ行の相通ということから考えて、やはり「さん」から「ちゃん」に転音したものとみたい。「おかあさん・おとうさん・花子さん・姉さん」等が、み な「ちゃん」になる。逆に、茶「ちゃ・さ」などもあり、また、ちいさい(小)が、「ちっちゃい」ともなるなど、了解がつくと思う。(詳細省略)



◆その39
 「あんぺ」

 これも、息子・長男の意味であるが、さらに位が下って、自分の子を卑下していう場合、他人のはやや軽蔑した呼び名 ということになる。この「ぺ」は、前の「さま・さん・ちゃん・ちょ」と、同じ系統だとは考えられまい。「あん」は「兄」であろうけれども。もとは歴とした 武士の名前の「重兵衛」などから、名無しの権兵衛・孫兵衛・五平・三平・助平・のんべい等となり、さらに「からこっぺい・ちゃっぺい(猫)」と転訛したと すれば、どうやらその「ぺい」が、卑下の接尾語として、くっついたのではなかろうか。なお考えてみることにする。(「ちゃぺ」は別な説もある。)



◆その40
 「あんじまし・ あじまし」(1)

 アクセントは「あんじまし・あじまし」。これは、津軽ことばの王座を占める、全国方言の中でも特に名高いものとされているが、用法も意味も微妙であり、使用範囲も広い。語源についても定説がないようだし、筆者も研究浅く自信もないが、以下思いつくままに述べてみたい。
 (1)コゴァカシガテ、ネマルニあじましぐナェ。
 (2)ハダギァマグレデ、ゴソゴソテあじましぐナェ。
 (3)あじましぐナェグサエルドゴデ、ヨメァネゲダ。
 (4)キョノユギキリァ、午前中ネあんじましぐシマタ。
 (5)田ノ草上リ、あんじましぐユコサエキタェ。
 (6)他人ヘナェデ、あんじましぐエッパイノムベシ。
 (7)高等学校オワテモ、あじましぐ手紙モ書ゲナェ。
 (8)兄ァカベグドゴデ、カマドァあじましぐナッタォ。
 (9)あじましぐ口モシャベレナェデ、村議ダナンデ。
(10)一年ナエダキャ、あんじましぐ着物コヌテキタ。
(11)ワラシァ泣グドゴデ、あじましぐキデエラエナェ。
(12)親子三人デあじまし。掃除シタキァあじまし。
(13)チサェバテナガナガあじまし家コダェ。
(14)ナンボモ、モノダバナェドモ、あじましカマドダ。
(15)学校ァあじましケレドモ、生徒ァデキナェデ。

 以上十五項の例を示してみたが、それぞれ少しずつちがうようで、また似ているようで、なかなか味があり、微妙な意味をもっている。形容詞は、標準語で は、六つの活用形のうち、命令を欠くものとして、普通は五つの活用形が用いられるので、その順序で並べてみた。すなわち(1)(2)(3)は未然形という 活用形。(4)から(11)までは連用形(副詞形ともいう)。(12)が終止形。(13)(14)は連体形(体言にかかる形)。(15)(16)は、いわ ゆる仮定形であるが、方言の場合は、特に仮定の意味になっていない。津軽方言の形容詞について、代表的な「あじまし」を例にとって、詳しく述べたいが、と ても今はできかねる。次に意味を。
 (1)処は傾斜で坐るに不安定だ。(山の遠足などで)
 (2)下着がめくれて、ゴソゴソして気持ちがわるい。
 (3)意地悪くされるので、嫁さんが出て行った。
 (4)今日の雪切りは、午前中に完全に出来上った。
 (5)田の草が終ってから、ゆっくり湯治に行きたい。
 (6)他人を入れないで、気兼なく、なごやかに一ぱい飲みましょうよ。(あぐらへんに台鍋)
 (7)高等学校をおわっても、ろくろく手紙も書けない。
 (8)兄さんが働き手だから、うちが裕福になった。
 (9)思うように口もきけないで、村会議員だなんて。
(10)一ヵ年習ったらもう、りっぱに着物を縫ってきた。
(11)子供が泣くので、落ちついて、はっきりと聞いていられなかった。(講演など、子を連れた母が)
(12)人数が少ないので、静かで気苦労がない。掃除したら部屋が綺麗になり、気もさっぱりした。
(13)小作りな家だけれども、きちんとした建て方だ。
(14)いくらも財産は無いが、和合がよ幸福な家だ。
(15)学校は気持ちのいい処だけれども、生徒の出来がよくなくて……。

 津軽人の考えている通りには、標準語では、とうてい表現出来ないものがある。
 以上申し述べたようにこのことばは、安心だ・気持ちがよい・完全に・ゆっくり・気楽に・なごやかに・すっかり・裕福だ・思うように・りっぱだ・落ちつい てゆっくりと・きれいさっぱりと・整った・和合幸福というような人間の気分や物事の状態性質等の、極めてこまかな点まで表現しようとする、津軽特有の方言 である。



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