[連載]

  441  ~ 447       ( 鳴海 助一 )


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その441
 「じぐなし」
 名詞。「じぐ」は根性、根気、意地・元気・活気等にあたる。
「じぐなし」は「じぐ」が「無い」だから、「いくじなし」「臆病者」「小心者」にあたる。

※じぐなしデ……。バゲ、ミシクタデバ、オニァサデファナェネ。アマリデファテアサェテモサダダンドモ。
○臆病者で、晩に、ご飯を食べてからは、外へ出られないよ。むやみに出歩くのも困りものだがね……。

※じぐァなェハデ、フトナガデ、クジサベルダバ、ガラットマェナェ。

○気が弱いから(度胸がないから)、人中で(大勢の前で)、口をいうのは全然ダメです。

▲「じぐ」の使用地域は極めて広範囲に亘る。
意味は少しずつちがうが……。
例えば「じぐなし」は、1いくじなし・臆病(東北一体)。
2怠け者(駿河・山梨・岐阜等)。
3ぶしょう者(静岡)。
4だらしがない。不器用な等々。



その442
 「しおびぎ」
 名詞。これは「塩引き」の意味で、津軽では主として「塩鮭・しおざけ」のことにいう。
「しおびき」は、魚類を塩づけにしたものの総称であるが、標準語でも、たいてい鮭やマスに用いるようだ。
津軽では、「鮭」即ち「しおびき」というほどで、「マス」などは、「生マス」「塩マス」というし、「しおびぎ」といえば「さけ」のことである。
別に「アギラジ・アキアジ」ともいうが。

※ソガジ、ナニァトエデモ、しおびぎノエッポンモドモタバテ、ネダンキデ、ホーホーテキタデァ。
○正月に、何を置いても、塩ざけの一本も……と思ったが、値段を聞いただけで、驚いて帰りました。



その443
 「しかんこ」
 名詞。これは野草の「かたばみ」のこと。葉に酸味がある。
全国各地の山野に自生する。方言の名も全国で三十数種あるようだ。
 津軽では、「すい」「すっぱい」のことを「しかェ」という。
「かたばみ」は「すっぱい」から、「しかんこ」というのであろう。
「こ」は接尾小詞で、別に意味はないらしい。
三十数種のうち「酢・す・すし・すい・すっぱい」の意味からきたもの、と思われるものだけをあげてみる。
1.しかしか(秋田県・本県)
2.しょうのき(群馬県勢多郡)
3.しょっぱぐさ(埼玉県入間郡・伊豆三宅島)
4.すいぐさ(出雲・隠岐・香川県志々島)
5.すいものくさ(新潟県古志郡・和歌山県ムロ郡・尾張)
6.しかんこ・すかんこ(北海道・津軽・青森・秋田・新潟等)
7.すぐさ(江戸・伊豆・大分)以下略。



その444
 「しげなェ」
 形容詞。これは
1.さびしい
2.ものたりない
3.おそろしい。こわい。

※コンニャ、メタネしげなェバゲダナ。
○今夜また、ばかにシンとして、さびしい晩だね。

※オヤジァ、エナェバエナェテマダしげなェデァ。
○亭主が、居なければ居ないでまた、寂しいねェ。

▲「しげなェ」は、「素気無い」「そっけない」ではなかろうか。
薄情・冷淡・愛想しない・かまわない・つれなくするなど……。

それで、こちらは、心に不満だ・物足りない・心さびしい・うらめしい……となる。
それが、さらに方言的に、墓地や野道がさびしいとか、こわいとかにも転じたのだろう。
他県にも「すげない」の例はある。



その445
 「しじァかぶ」
 名詞。これは「ひざかぶ」「ひざがしら・ひざ小僧」のこと。
「かぶ」は、「株・こぶ・首・頭」などと同族語で、「膝がしら」の形から名づけられたものであろう。
津軽では訛って「しじァかぶ」という。また、ズボンや股引きの、その部分をもいう。

※オドゴワラハドァ、ズボンノしじァかぶキラシテ。
○男の子は、ズボンの膝のところを、よく切らしてこまる。

※モモシギノしじァかぶァ、ツギダデァナナェ。
○ももひきの膝のところが、繕いきれない。

※カブネカエナェカブ、ナーニ。しじァかぶ。
○かぶに食われないカブァ何でしょう。膝かぶです。

▲「ひざ・膝」または「膝頭・膝蓋」の方言は、全国各地に極めて多くみられる。
人体のうちでも、重要であり、そして愛きょう者だからであろう。



その446
 「ししらさび」
 形容詞。これは「肌寒い」「うそさむい」「なんとなく寒い」というものにあたる。
風邪気味の「悪寒」「ウジャメグ」とは少しちがうようだ。
「薄気味が悪い」「薄笑い」「うす曇り」などの「うす」に、「寒い」がついて「うす寒い」。
それが「うすらさむい」。
そして「ししらさむい・ししらさび」と訛ったものだろう。
なお「うす」と「うそ」は同じ「すすろに」と「そぞろに」、「あしこ」と「あそこ」等、みな、サ行音の転音の現象で同一語。

※ケサ、メタネししらさびアサマデシジャ。
○今朝は、妙に(どうも)冷たい朝ですねェ。

※サット、ししらさびンタバ、シゴドァハガエグ。
○少し寒いようだと、仕事ははかどります。

▲「ししらさび」「ししらさむい」も、青森県津軽の外に、広くいわれていることと思われるが、全国方言辞典その他にも、青森県とも、津軽とも出ていない。



その447
 「じょっぱり」
 名詞。これは「剛情・強情」「意地っ張り」「頑固」とかに当たる。
「剛情っ張り」ともいう。

※アノフトァ、テマェデ、エグナェシテモ、ドゴマデモ、じょっぱりトシドゴデ、ダンモ、カモナェグナテシマタネ。
○あの人は、自分で明らかに良くなくとも、(自分が間違っていても)あくまで、理窟をならべて、無理を言うから、誰も、構わなくなりましたよ(相手にしなくなりましたよ)。

※じょっぱりァムリトシ、ハルガジャエワワシ、ネゴサゲァジャルトシ、ホツパリァゴンジャトシ……。
○じょっぱりは無理を通す、春風は岩を通す、濁り酒はザルを通す、寝小便はゴザを通す……。

 これは、津軽の民謡の王座を占める「じょんからぶし」などの囃子文句(はやし)であるが、「通・徹・透」などの「とおす」をおもしろく並べたもの。
情張りな人、春の風・濁酒・寝小便とは、まことに奇抜である。
村中の寄り合いやその他いろいろな集合の席で、いつも頑固で、じょっぱりで、手におえないような親父どのは、こんな、はやし文句の中で、はやされ、笑われ、そして制裁を加えられる、というわけか……。



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