[子育て]

41話〜50話      柴田学園大学短期大学部 学長 島内 智秋



前へ          次へ



[その41]

●「親子の信頼関係」

 私の通勤時間は、家から駅まで徒歩で20分、そこから電車で30分、駅から通勤先まで徒歩10分で、約1時間かかる。夕方どんなに急いで帰っても、子どもの帰宅時間には間に合わない。
 小1の息子は帰宅後すぐに宿題を喜んでやってしまうが、小2の娘は明るいうちは外で遊び、くたくたになって帰ってくる。
私が帰宅する時は、ちょうど夕飯もすみ、おなかいっぱいで眠くなる頃である。宿題を寝そべってし、眠いためぐずりながら少し書いてはかんしゃくを起こし、ぐちゃぐちゃ書いてはやり直し、それをずっと繰り返してどうにも手のつけようがない。
 見るに見かねて「何回もぐちゃぐちゃにして書いていれば、何回もやり直さないとだめだし、いつまでも終らないよ。1回できちんと書いて終らせよう!」と 何度も言い聞かせてみるものの、効果はない。時計の針も8時を回ったし今日はもう寝て、明日朝にするように促してもそれではだめだと、ゴンボをほるし まつ。
 少し眠ると落ち着くかな〜と思い「お母さん抱っこして寝せてあげるから、それからやったら? 少し寝た方がいいよ。10分ぐらいしたら起こしてあげるか ら」と約束し、赤ちゃんの時のように背中をトントンしてゆらしながら抱っこしていた。するとさっきまで暴れていた娘が目を閉じて涙をこぼした。それから 10分もたたないうちに「もう大丈夫になった」と落ち着いた顔で残りの宿題を仕上げた。
 その後、自分のしたことを振り返った。何度も言い聞かせた時は、宿題を仕上げることを中心に考えてはいなかったかと反省。抱っこした時は、眠くてどうし ようもならないで困っている娘の気持ちをなんとかしてあげたいと思ってしていた。その思いが伝わったのか、抱っこには不思議な力があるのだと感じた。抱っ こすることで何も言わなくても、気持ちがじんじんと伝わり安心するような感じがした。抱っこしていると、抱っこしているのか抱っこされているのかわからな いくらい、こちらの方も落ち着いてくる。
 子どもが少し大きくなってくると、生意気な口調で口ごたえするようになってくる。その言葉と態度にムッとして、親も感情的になり、子どもを傷つける言葉をいったり、声を荒げたり、時には手をあげてしまうこともある。
 親も人間だし、失敗もある。でも大事なのはその後だ。少し冷静になって、「さっきはごめん。あんな言い方をしない方がよかったね」ときちんと謝ればいい。叱り方が効果的なのは、そのベースに強い信頼関係があってこそ。大好きな人の言葉は心に響くものである。



[その42]

●「運動会で感じたこと」(1)

 5月最後の日曜日。下の子ども2人が通う小学校の運動会でした。1週間くらい前から2人で応援歌を歌い張り切っています。当日、窓のてるてる坊主もずらりと並んで、応援してくれていました。
 1年生の息子の走る姿を見て、ここまでよく大きくなったものだと感無量。2年生のマラソンでは、娘が2周目あたりからお腹を押さえながら苦しい表情で 走っていました。総練習では2番だったのが、当日は5番でゴール。1番をとれなかった悔しさと、お腹が痛いのもあって、ゴールしたとたん、お腹を押さ えて泣き始めました。
 それを見て、胸いっぱいになり、近くに行って「お母さん、見てたよ。お腹痛いのによく頑張って最後まで走れたなね」とお腹をさすったり、涙をふいたりして元気づけました。気持ちを切り替えるために、涙が早くとまるおまなじないのハンカチも渡して…。
 保育園のマラソンの時も1番を取れなかった悔しさで昼のご飯も食べられないぐらい泣きじゃくり、家に帰ってからもずっとめそめそしていたので、今回も、あとを引きずらなければいいが、と心配していました。
 3位までの表彰台には上がらなかったものの、入賞ということでみんなから拍手され元気がでたのか、「いっぱい練習も頑張ったし、入賞したからよかった」と気持ちを切り替えて午後の競技にも張り切って参加していました。娘の成長を感じて、嬉しく、いとおしく思いました。
 運動会で順位をつけるのがよくないとか、みんな平等にという理由で、先にゴールまで走った子があとからくる子を待って、手をつないで一緒にゴールさせ、みんなが一番という形式をとる運動会もあるとききます。
 小さいときにはそれでいいかもしれませんが、その先の小・中・高では、競争もあるし順位もつけられます。順位が大切なのではなく、悔しさや挫折を克服し ていくいろいろな経験をして、たくましく豊かな心に育っていくことが大切なのだと思います。そして自分の頑張りに納得し、勝った人をも祝福できる気持ちに なれるのです。小さいときの挫折やトラブル、葛藤は、子どもが大きく成長するいい機会なのです。



[その43]

●「運動会で感じたこと」(2)

 辛いこと、疲れること、面倒なこと、とりかかりはいやだな〜と思うことでも、やってみると楽しかったり、やりがいを感じたりすることも多いもの。また、 難しいな〜と思うことでも頑張ってできるようになったときには、できた嬉しさのほかに、次に困難なことに出会っても「この前も頑張ってできたんだから、こ れも頑張ればできるようになる」と、自分を信じる力が育まれていくのです。
 幼稚園や保育園で、子どもたちはいろいろな経験をします。得意なことも不得意なこともあるでしょう。不得意なことはお母さんも一緒にやってみてください。そうするとお子さんのいろんなところが、わかるでしょう。ただ頑張れと励まされるよりもずっと心強いはずです。
 幼稚園の先生をしていた時のこと、クラスの子どもに誕生会で嬉しかったことをインタビューしたところ、「なわとび大会の時になわとびができなくて、家 でおかあさんも一緒にとんで練習したらできたことです」「お母さん、その時どうした?」「お母さんも泣いてた。嬉しかったんだって」。話す子どもの笑顔が 輝いていました。
 何かにぶつかって、幼稚園や保育園に行きたくないということもあるでしょう。そのときこそ、お子さんがひとつ乗り越えて大きくなるチャンスだと思い、先生を信じて登園させてくださいね。



[その44]

●「外で学ぶ」

 子育て支援のモデルとしてよく取り上げられるカナダでは、子育て家庭のあらゆるニーズに手を差し伸べてくれるファミリー・リソース・センターがあります。子育てに関する相談はもちろん、食料・衣類の世話から住宅や仕事探しまで、いかなる相談にも対応してくれます。
 親が自信を持てるように「解決策をともに考え、支援しよう」という姿勢が根底にあり、子育てを肩代わりしようというものではありません。しかし、親とは違う視点からの援助が子育てにハマってしまっている親にはとても頼りになるのです。
 日本の場合、一人の人間である前に、「親でしょ」「お母さんでしょ」と、いつも親であることを求める社会通念が、いまだに根強く残っている感じがします。子どもとだけ向き合うことを強いられた親は、社会から孤立しているという思いにかられ、ほっとする時間がないのです。
 でも、そうしていても辛くなるばかりですから、お子さんと一緒にいろんなことに参加してみることをお勧めします。
 5月最後の日曜日。大鰐町の観光協会のボランティアに親子で参加してみました。内容は、小鳥の巣箱の設置やごみ拾いなどです。親子で自然の中にいると、日頃悩んでいたりすることが、とってもちっぽけなことのような気がして気持ちも大きく、また穏やかになれます。
 「小鳥さんがこの巣箱を気に入って、たくさんの小鳥さんが元気に育てばいい」と言ったのは小2の長女。自然に触れることやたくさんの経験は、子どものいろいろな面をひきだし、そのたびに嬉しい発見がありますよ。
 手始めに、近所の母親クラブや児童館などの行事に参加してみませんか?
 きっといろんな発見やいろんな家の子育てを聞いて、気持ちが広がると思いますよ。



[その45]

●「子どもは子どもの中で育ちあう」(1)

 「子どもは子どもの中で育ちあう」ということを親が知らないと、自分の子どもだけを一生懸命に教育しようとします。
 大切な勉強は学校の先生や塾の先生から、水泳、サッカーなどをスポーツクラブのコーチから、ピアノ、ヴァイオリンのレッスンを音楽関係の先生か ら、英会話を外国人講師からというように大人からいろんなことを教えてもらっていれば大丈夫と思ってしまいます。そして家庭では親がきちんと躾(しつけ) さえしていれば申し分ない子どもに育つと思い違いしている人はいないでしょうか。
 たしかに知識・技術は伸びるかもしれません。ところがそれでは子どもの人格の中心となるところが育っていきにくいのです。知識が積み重なっていくために はベースになる感情が育っていかなければ本物として身についていきにくいのです。ベースに感情があってその上に自主性や社会性、その上に知識が積み重 なって人格が形成されていくといわれます。ですから知識が先にきてベースがないとあとでくずれやすいのです。
 感情は家庭で母親からたっぷり愛情をかけてもらうと育っていきますが、次の自主性、社会性は子ども同士の遊びの中で身についていきます。



[その46]

●「子どもは子どもの中で育ちあう」(2)

 拒食症・不登校などをはじめ、いろんな身体的な変調を訴えるのは心身症の状態です。そして近年は、児童精神衛生のクリニックは社会性の不足した子どもたちで混雑しています。
 彼らの多くに共通していることは何事も大人からしか学んでいないということです。子どもは子どもから学ばなければならないのです。大人の中で大人から教えられて育っていくだけでは、その年齢相応の社会性は身につけられないし、子どもたちの社会には、なじめないのです。
 子ども同士でもまれて(いじめられるという意味ではありません)、いろいろな思いを経験して育ちます。けんかが多い子をもつお母さんは悩むかもしれませんが、自主性が育っている証拠でもあります。
 我が子がかわいいと思うならば、どんどん子どもたちの中に連れていきましょう。できれば、近所に何軒かお互いの家庭を行き来して、子どもを預けたり預け られたりする関係ができたらいいですね。Give and Takeの関係作りです。そのためにはまず、自分から勇気を出して「子育てどうしてる?」「家の子、こうなんだけどお宅はどう?」そこからいろいろな話が 聞けると思いますよ。
 子育て中のママは、同じく子育てと悪戦苦闘している仲間です。かたい自己紹介なしに、すんなりと話がはずむと思います。子どもも子ども同士で育ち合い、子育ての親同士もお互いに育ちあえるいいチャンスだと思いますよ。



[その47]

●「周りの人に育てられ」

 8月最後の土・日曜日で、大曲の花火大会の見学でキャンプ1泊してきました。私は車の運転免許もない、主人も仕事だし、ましてや3人の子供連れ。大変 な思いをするのは行く前からわかっていました。それが、中学校の役員の付き合いで始まった家族からのお誘いで、連れて行ってもらうことになりました。
 キャンプ旅行は、車での移動中にもいろいろあった中で、上の子が下2人の面倒をみたり、すぐに怒ったりすねたりする娘が怒らなくなったり、泣きやすい末っ子も泣かなくなったり、いうことをよく聞いて我慢したりと、嬉しい変化が見えてきました。
 子どもも親といれば甘えすぎ、親のほうも一緒にいるとついついやってあげたり口をはさみすぎたりしてしまい、それが子どもの成長を妨げていることに気づかされました。
 また、帰り道に車の中で寝てしまっている子どもたちを見て、皆さんが、その変化に気づき喜んでくれました。〈子育てをいろんな人と関わりながらするっていうことは、嬉しい気持ちを共有できる仲間が増えるということなんだな〜〉と実感したいい日になりました。 



[その48]

●「父親の出番」

 9月になって中央からいらっしゃった子育て関係について取り組んでいる先生方の講演会が開かれた。父親の育児休暇の取得率は、今はかなり高くなってきた というものの、まだ0.55%だということや、父親の育児参加という言い方も、母親が主のものに手伝うという扱いが気になるということだった。
 私が読んだある本の調査で「母親のスキンシップは感情の安定に、父親のスキンシップは大きくなってからの社会性に大きく影響する」と出ていた。ま た、父親は子育ての出番を子どもの思春期の時だと思っていることが多いのに対し、母親は、手がかかる最中のときに話を聞いてくれるだけでいいという小さい 願いを持っている。
 乳幼児期、学童期のスキンシップが、大きくなるまで子どもの発達に大きく関わっていることを知らない父親も多いのではないかと思う。父親自身が、出番だと思っている思春期になって、のこのこ出てきて、ああしろこうしろと言っても、うるさがられるばかりだとか。
 ただ、小さい時に肩車や相撲など、体を使った遊びを十分にしてもらっている子は、思春期の反抗期のさなかにあっても、お父さんの話に耳を傾けるようで す。ちゃんと小さい時の思い出があるからなんですね。回線が通っているのです。子育てはお父さんの果たす役割がキーポイントになっているようです。



[その49]

●「赤ちゃんが泣いたとき」

 赤ちゃんは、泣くのが仕事と言われるくらいによく泣く。泣くことの原因は、オムツが濡れた、お腹がすいた、具合が悪い、眠いためのぐずり、甘えたい時など、不快を訴えるためがほとんです。
 そうとはいえ、一日に何回も泣かれる母親は滅入ってしまうこともあります。ましてやこれが夜中ならなおさらのこと。
 けれど、この泣いたことへ応えるということが、子どもの心の成長に大きく関係しているのです。
 赤ちゃんは不快を全身で泣いて訴えます。そして誰かが来てくれて助けてくれたという繰り返しの中で、「訴えてもいいんだ」「訴えれば助けてもらえるんだ」という安心感が心の中にできます。そして、助けてくれる人に対して信頼感が生まれます。
 またそれは「自分は助けてもらえる価値がある存在なんだ」という自己肯定感につながります。これこそが人として生きていく心の土台となっています。ここから周りの人に愛情を持っていくようになっていくのです。
 これが不快を訴えて泣いても誰も来ないとなると、赤ちゃんも泣かなくなってきます。これはおとなしい手のかからない子になったのではなく、「どうせだれも来ないから」と、あきらめるようになるのです。
 赤ちゃんだからわからないと思っていないでしょうか。オシメを取り替えたり、ミルクを飲ませたりと、何気ない日常のお世話を繰り返していく中で、お子さ んにはその愛情がたっぷり伝わっていくのですよ。しっかり心の栄養となっているのです。誰もわからなくても、お世話してもらっているお子さんが、ちゃんと ママの頑張りをわかっているし、喜んでくれています。
 大変だと思いますが、赤ちゃんとのコミュニケーションの手段の一つだと思って、自信を持って、たくさん語りかけながらお世話してあげてくださいね。



[その50]

●「気になるあと追いは…」

 お子さんのあと追いに、イライラした経験はありませんか?
 トイレに入ろうと席を立つと、ばたばたとついてくる。私の場合、トイレの扉を閉めようとすると泣き叫ぶので、結局ひざの上に抱きながらようを足すということもありました。
 あと追いは、人見知りの延長で、お母さん、お父さん以外の人への強い拒否感・不安感や安心したいという気持ちから起きる行動です。人見知りが視線をそら したり、泣いたりするという消極的な愛着行動だとすれば、あと追いは積極的な愛着行動です。「ママがあっちへいく。行かなくては」とわかるほど成長した証 拠でもあるのです。
 足元にまとわりつかれて、わずらわしいな、あぶないな、と思うときもあるでしょうが、追いかけてきたら抱きとめてあげましょう。これで抱き癖がつくこと はありません。不安を取り除いてくれると信じて追いかけた人に拒絶されたら、赤ちゃんはどう感じるでしょうか。手を離せないときには声をかけながら気持ち をそらし、時間をかせぎますが、最後にはしっかり抱き上げてくださいね。



 子育てサポートTOP
前へ          次へ

トップページへ