[連載] | |
91話〜100話( 佳木 裕珠 ) |
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◆その91 選択(2) 外気温が低くなった分、校舎内の気温も同じようにぐんと下がっている。 そんな寒い生徒会室で由希と昌郎が大きな楕円形のテーブルを間に対座していた。 そのテーブルを囲んで、生徒会役員達は生徒会活動について話し合ったり、時にはポスターや掲示物などを作る時の作業台として使っている。 今は、筆記用具や進学・就職関係の本が何冊か無造作に置かれている。 「遅くまで残って貰って済みません」 由希は、そう言って口火を切った。 「いいえ、早く帰ってもさしてやることもないから、良いんです」 昌郎は由希と二人で向き合っていることに少し緊張していた。 応援団の仲間や生徒会役員のみんなと一緒の時でも、由希のことを意識しないことはないが、それでも自然な対応が出来ていた。 しかし、こんな風に二人きりで対面することは初めてで、先輩後輩という序はあるものの異性として由希を感じる自分の気持ちに戸惑っていた。 必然的に言葉は固くなり、一見突慳貪(つっけんどん)になってしまう。 もっと打ち解けて話したいと思う心が、昌郎の中で空回りしていた。 「今日は一つお願いがあって木村君に残って貰ったの」 「お願いですか?」 「ええ、お願いなんです」 由希は単刀直入に話し出した。 「実は、次期生徒会役員のことなんだけれど、今の副会長が会長に立候補してくれることになっているのだけど、彼が選挙演説の中で副会長候補として木村君をあげたいと言っているの」 「えっ、俺が副会長ですか」 「ええ、彼は立候補すれば確実に生徒会長になると思うし、現生徒会も彼を全面的に応援するつもり。その彼のたっての希望が、木村君に副会長を引き受けて貰いたいと言うことなの」 「俺が、生徒会副会長ですか」 昌郎は同じ言葉を繰り返した。自分が応援団をやることになったのは、由希にお願いされたからである。 初めは嫌だったが、今では応援団のない生活なんて到底考えられない。 そんな応援団を与えてくれたのは由希だった。 ◆その92 選択(3) 応援団活動への道筋を与えてくれた由希、それは憧れの異性からのお願いだったから引き受けたという面もあった。 しかし、それが自分にとってどれほど素晴らしい出会いであったか。 由希の今回の提案は、また自分に何かの出会いを提供してくれるのかも知れない。 昌郎はそうも思った。 しかし、応援団長と生徒会副会長を両立できるのだろうか。 もし生徒会副会長を引き受ければ、どちらも中途半端になってしまわないだろうか。 そんな疑問を昌郎は率直に口に出した。 「応援団長と生徒会副会長を両立させることが出来るでしょうか」 由希は、当然発せられるであろう昌郎の疑問にこう答えた。 「それは、私にもわからない。誰も今までにその二つをやった人がいないと思う。それに副会長をやると言うことはその次には、生徒会長をやると言うことも期待されている。そこまで考えてみれば、安易に両立できるとは言えないわ」 「生徒会長?」 「ええ、貴方には生徒会長も期待されている。私も今の副会長には、その方向で話して来たから。勿論絶対そうでなくてはだめだと言うことはないけれど、もし 副会長が生徒会長を引き継がなければ、新たに生徒会長候補を選ぶことになって、大変な苦労が強いられることは確実だと思うわ」 ここまで話し由希は一呼吸置いてから次の言葉繋いだ。 「木村君に、一種強引に頼んで応援団になって貰ったけれど、私のそのお願いに関しては間違いでなかったんじゃないかって、今つくづく思っているの。そう思っていい?」 由希に見つめられて戸惑いながらも、昌郎は彼女の言葉に力強く頷いた。 「今私は、生徒会の役員として木村君に副会長のことをお願いしているけれど、私個人としては、お願いして良いのかどうかとても迷っているの。今、この時点でもその気持ちは同じ」 由希は、思うところを素直に述べた。 強引に昌郎を応援団にさせてしまったが、今の彼女にはそのことへの後悔は微塵もなかった。 ◆その93 選択(4) 「その返事、月曜日まで待って貰えますか」 昌郎のその言葉で二人の短い話し合いは終わった。 実は昌郎には、もう一つ考えなければならないことがあったのだが、そのことは由希には伏せておいた。 家に帰った由希の頬は紅潮していた。 四月から比べると何と言う変化だろうか。 今日の昌郎は、彼女の目に痛いほどに男らしく輝いていた。 今年入学したばかりの彼に応援団員になってくれないかと頼んだ時、まだ少年らしいあどけなさが感じられたが、あの時と今の彼は全く別人の観があった。 しかし、どちらも同じ昌郎であることは間違いない。 彼をあのように輝かせているのは、応援団という存在なのだろうか。 多分応援団があるからこそ彼は成長したのだろうが、打ち込めるものが別のものであっても、彼は輝くことが出来る存在なのだろうと由希は思った。 涼しい目元で凛としているが、体の内に燃える情熱を持っている。 そんな気配が感じられた。 今まで二人だけで話したことがなかったから、何となくそれらを感じてはいたが、今日、二人で対峙した時に、そのことがはっきりとわかった。 身長はぐんと伸び、立っている時は見上げるように話をしなければならない。 肩や胸の筋肉が厚くなっていることは、学生服の上からでも感じられた。 目元に若干の幼さを残しながらも、頬骨がしっかりとして顎の線がシャープになり眉も太い男らしい顔立ちになっている。 男の子の変身ぶりに目を瞠る思いで、由希は昌郎を見た。 夏の日から感じていた昌郎に対する自分の気持ちを、由希は今日改めてまた確信するのだった。 今日、生徒会副会長を引き受けてくれるように昌郎に頼んだのは、あと一年後、彼に生徒会長をして貰いたかったからに他ならない。 彼ならば立派な会長になるだろう。 自分ができなかったことを解決してくれるだろう。 そんな期待もあったが、断られたとしても納得できると由希は思っていた。 ◆その94 選択(5) 昼休み時間に由希から、放課後ちょっと話があるから生徒会室に残ってくれないかと頼まれた直後、校内放送で職員室に来るようにと辻先生から呼び出しがあった。 由希の話も気になったが、辻先生の呼び出しも気になった。 職員室に入ってくる昌郎を辻は直ぐに認めて、彼を自席の方に手招いた。 「遅くなりました。先生なんでしょうか」 一礼し背筋をしっかりと伸ばして話す言葉には、古めかしいが良き学生気質が感じられ辻は頷いた。 やはり笹岡先生の目には狂いがない。 辻は丸椅子を自分の横に置いて昌郎にそこに座るように指示した。 「それでは、失礼します」 そう言ってから昌郎はスチールの丸椅子に腰掛けた。 益々もって彼が適任だ。 確信した。 「木村、今日の午前中に笹岡先生から電話があったのだが」 「はい」 「笹岡先生は高体連の応援団部門の委員長をされていることはわかっているか」 「いえ、初めて聞きます」 「そうか、県内の高等学校の応援団は、高体連の応援団部門に所属することになっている。その県下の応援団を束ねるのが委員長である笹岡先生の役目だ。来年度、その応援団部門が高体連に加盟して五十周年目を迎えるにあたり記念式典を催すことになったのだそうだ」 「はい」 「そこで、五十周年記念式典の実行委員会が先生方で作られたのだが、今回は応援団の生徒達による準備委員会も設置することになったそうだ。そこで、木村お前にもその準備委員になって貰いたいと言うのだ」 「自分がですか」 「そうだ」 「自分はまだ一年生ですし、中学校の時は全然経験もなく、応援団活動も始めたばかりです」 「木村、これは来年度の話だ。お前は来年二年生になる。二年生は一番活躍しなければならない学年だ。それに、笹岡先生の厳しい特訓と薫陶(くんとう)を得 ているんだから、活動の長短よりもその内容の濃さだ。ねぶた囃子の応援、幻の応援歌の復活。そして全生徒への校歌の浸透など、お前達の活動はめざましい」 ◆その95 選択(6) 来年度、応援団部門の高体連への加盟五十周年式典の生徒の準備委員会の一員に指名されていることの誇らしさが昌郎にはあったが、今の応援団の活躍は自分一人でやったことではない。 山村や真治、克也と一緒に苦労してやって来たことだ。 自分一人だけが準備委員として県下の高校生の代表となることは出来ない。 そのことを昌郎は辻に話した。 辻は、昌郎の言葉に頷いた。 「お前の言うことにも一理あるな」 そう言った後で、辻はこう提案した。 「よし、それならばお前等四人が準備委員にして貰ったらどうだろうか。それで良ければ、笹岡先生にそう言って此方からお願いしてみるがどうだ」 「そうして頂ければ、大変ありがたいです」 「もし四人一緒ならば引き受けてくれるか」 「はい、自分としては引き受けさせて頂きたいと思いますが、仲間の意見もありますので、そのご返事をいただいたらあいつ等にも聞いてみたいと思います。出来るだけ四人で協力させて貰うように自分も努力します」 「そうか、笹岡先生は午後から出張だと言っていたから、返事は月曜日になるがいいか」 「どうぞ、よろしくお願いします」 深々と頭を下げ礼を述べて昌郎は職員室を辞した。 その日の放課後に、生徒会副会長のことを由希からお願いされたのである。 由希からの頼みならば何でも聞いて叶えてやりたい。 彼の気持ちの中ではその思いが強かった。 しかし、生徒会活動と応援団活動のどちらを選択するかと言えば、昌郎の答えは初めから決まっている。 当然応援団活動である。 由希の願いを聞き入れて応援団になった。 今回も彼女の願いを聞き入れて生徒会副会長を引き受ければいいのだろうか。 しかし、そう簡単なことではなかった。 応援団は彼の生き甲斐になり、仲間達との絆になっていた。 笹岡先生への恩義もあった。 土曜日と日曜日、昌郎は応援団のことについて生徒会活動のことについて、そして由希のことについて深く考え続けた。 ◆その96 選択(7) 明けて月曜日、昌郎はまだ決めかねていた。 笹岡先生と連絡が取れないのだろう、昼休み時間になっても辻先生からの呼び出しがなかった。 今日、由希に生徒会副会長を受けるかどうかの返事も約束していた。 しかし、それも決められない。 授業が身に入らずに帰りのホームルームになった。 諸連絡が終わり帰りの挨拶が済んだ後、担任から昌郎に連絡があった。 「木村、辻先生が呼んでいるから、清掃が済んだら職員室に行くように」 掃除当番を済ませてから、昌郎は職員室に向かった。 辻は金曜日と同様に昌郎に丸椅子を勧めた。 「失礼します」 昌郎は腰掛けた。 「早速だが、高体連応援団部会五十周年の準備委員の件について、笹岡先生からの連絡を伝える」 辻は一呼吸おいてから話を続けた。 「一応、今日朝一番で笹岡先生と連絡をとり、おまえ達四人一緒に準備委員にしてもらえないかと話した。笹岡先生は、自分の一存で決められない。関係の先生 方と連絡を取ってみるから、少し時間をくれと言われたので、ずっと連絡を待っていたが午前中には来なかった。きっと難航しているのだろうと思っていたが、 やはり同一校から四人もの委員を出すことに他の先生方の理解が得られないから、四人一緒は無理だとのことだった」 「やはりだめですか」 「うむ、これだけは笹岡先生も規則を曲げられないと話していた。ただ、先生はこうも話された。木村の気持ちはよくわかるが、仲間達は木村が自分達の代表と して委員となることに何の拘りも持たないはずだ。木村は団長なのだから、彼等は十分に理解する。応援団員とは、仲間のためになることには理解し協力を惜し まない、そんな男達の集まりなのだ。そう話されていた。そして、木村に委員として引き受けることを期待すると伝えてくれと話を結ばれた」 辻から伝えられた笹岡の気持ちが、昌郎にずしんと響いた。 やま達の気持ちを俺以上に笹岡先生は掴んでいる。 彼の胸は熱くなった。 ◆その97 選択(8) 職員室を出ると、昌郎は真っ直ぐ生徒会室に向かった。 山村達は、部屋の中心にある楕円テーブルの一角で頭を付き合わせ、一生懸命にA3のコピー用紙を広げて何かを書いていた。 他に生徒会の役員達はいなかった。 昌郎の顔を見ると、書きかけの用紙を指で示してポスターを作っていたんだと声をかけてきた。 「何のポスター?」 昌郎の質問に真治が答えた。 「団員募集のポスターさ」 「団員募集?」 「そう。この頃応援団に入りたいって言う奴が何人か出てきたの知っているだろう。だから、この際団員を一般公募したらどうだろうということになって、それじゃ、まさが来るまでポスターでも考えていようかと、今三人で考え始めたところさ」 昌郎は彼等と一緒に丸テーブルを囲んで椅子に腰を下ろした。 三人はポスター作りに盛り上がっていたが、会話に入らずに自分達を見ている昌郎の態度に気が付いた山村が声を掛けた。 「まさ、どうした。団員募集に反対か」 真治と克也も会話を止めて昌郎を見た。 「いや、団員募集は大賛成だ」 「そうか、それだったらお前も何かアイディアを出してくれ」 「ああ」 「そうだよ、何かインパクトのあるキャッチフレーズを絞り出してくれよ」 「さっきから、俺達一生懸命に考えているんだが、さっぱり思い浮かばない。冷静なまさの頭で、アッというようなキャッチフレーズ。アイディア何かないか」 そんな真治達の言葉を一通り聞いた後で、昌郎は切り出した。 「実は辻先生を通して笹岡先生から頼まれたことがあるんだ。みんなに相談してから、返事をしようと思っている」 昌郎は、来年度、応援団部門が県の高体連に加盟して五十周年目を迎えること、そして五十周年記念式典を開催するにあたって応援団の生徒達による準備委員会も設置されることになり、その委員に自分が推薦されたことを話した。 そしてこの委員を受けるべきかどうか彼等の考えを率直に聞いた。 ◆その98 選択(9) 「まさ、それは絶対に引き受けるべきだ」 山村が宣言するように力強く言った。 真治や克也も大きく頷いた。 「まさ、是非俺達の代表として、この学校の代表として、その委員を引き受けてくれ」 真治は何時になく真面目な顔で昌郎に話しかけた。 克也はまた大きく頷いた。 そんな彼等の真剣な眼差しに触れ昌郎は思いを定めた。 「わかった。その委員をやらせてもらうことにする」 そう言ってから彼は言葉を続けた。 「俺が応援団員としてやって来られたのは、やま、克也、真治お前達がいたからだ。俺だけだったら、やれなかった。だから俺一人が委員となることに抵抗を感 じた。できるならば、みんなと一緒に委員をやりたいと思った。でも、それは各校一名の委員という決まりがある以上、認められないと言われた。応援団の真価 は、組織力で問われる。一人一人の立場で努力しながら、必要なときに結集できる信頼関係だと思う。俺が委員になろうがなるまいが、俺達の応援団は何ら変わ ることはない。今のみんなの言葉を聞いて、俺はそのことを確信した。みんなが言ってくれる言葉を胸に、俺は委員を引き受けることにしたい」 山村達は、昌郎の言葉に深く頷いた。 山村が言った。 「それでこそ、まさだ」 「俺達はまさの応援団でもあるんだ」 真治が言った。 そして克也は戯けて言った。 「俺等がバックに付いているから、まさに委員のお声がかかったのさ。だから、まさの委員に俺達も喜んで協力する」 四人は顔を見合わせながら、テーブルの上で手を組み力強く振った。 山村がぼそりと言った。 「最近、裸の付き合いをしていないな」 裸の付き合いとは、昌郎達が月に一、二度近所の風呂屋に行き、そこのサウナで、応援団のことについて熱く語ることを指している。 「そうだ、しばらくやっていなかったよな。やろう、やろう。明日みんなで菊の湯に行ってこれからの我が応援団について話そうよ」 真治と克也がはしゃいで言った。 ◆その99 選択(10) 応援団部門の県高体連加盟五十周年記念式典の準備委員を引き受けると言うことは、由希から話のあった次期生徒会副会長のことを断ることである。 昌郎には、この両方を引き受けることは考えられなかった。 準備委員と生徒会副会長の二つを引き受けるとすれば、必ずどちらかが片手間となってしまう。 昌郎にとっては、どちらか一方だけでもその任は大きく重い。 両方を器用にこなすことなど自分には出来ないし、そうするべきでもないと彼は考えた。 どちらか一方を選択し、それに自分の全力を傾けることで、初めて自分の責任を果たすことが出来ると思った。 それでは、自分がやりたいこと、やり甲斐を感じること、そして責任を持ってやり遂げることが出来るのは、応援団活動であるのか生徒会活動であるのか、自分に問い掛けてみれば、悩むことなく応援団活動であると言えた。 しかし、自分が応援団活動を選択するとすれば由希からの生徒会副会長については断らなければならない。 この一点で昌郎は悩んだ。 しかし、自分の気持ちを曲げて生徒会副会長の方を選んだとすれば、何時か自分は後悔することになる。 そして由希を恨むことになるかも知れない。 自分の応援団にかける熱い情熱と純粋な気持ちに正直になることだ。 それを由希は絶対に理解してくれるだろう。 そんな確信が、彼の胸の中に芽生えた。 夜八時、昌郎は兄の携帯電話を借りて自分の部屋に入った。 彼はまだ自分専用の携帯を持っていなかった。 木村家では高校三年になるまで携帯電話の所持が許されていなかった。 机に向かい、由希から渡されたメモを見ながら、彼女の携帯電話の番号を押した。 彼女も最近、携帯電話を持ったばかりだと言っていた。 携帯電話を握った昌郎の手が汗ばんだ。 彼は非常に緊張していた。 それは、生徒会副会長を断る事の緊張でないことは、彼自身一番よく知っていた。 それは由希から携帯電話の番号を教えられた緊張であった。 ◆その100 出会いそして別れ(1) 冬休みも間近かとなった日、高体連応援団部会五十周年式典の第一回準備委員会が、昌郎達の学校で開かれた。 昌郎達の高校の生徒会顧問で応援団の顧問でもある辻が、今回の五十周年記念式典の事務局を努めることになったためだった。 通常は職員会議などに使われる大きな会議室に集まったのは、20人程の高校生と笹岡を筆頭に辻など5人の顧問教師である。 生徒の中には数名の女子も混じっていた。 さすがに選りすぐった応援団員だけあって会場の空気は凛としていた。 昌郎は、身の引き締まる思いと同時に、この席上に自分が参加していることに高揚する気持ちを抱いた。 確かにむさ苦しい男子も多い。 しかし、みんな例外なく目が輝いていた。 その中でただ一人風采のあがらぬ、目元が笑っているようなぼんやりとした印象の生徒がいた。 昌郎はなぜか、その生徒が気になった。 一番始めに笹岡が挨拶に立ち、準備委員会の設立趣旨を述べながら、此処に集まった君達を中心として生徒達が企画・運営する記念式典をやってもらいたいと話し、委員となった生徒達の志気を高めた。 その後、顧問教師の紹介が行われ続いて、生徒達の自己紹介となった。 先生達を正面にロの字になった席の左側の生徒から順に校名、学年、氏名を応援団員らしく力良く伝えられた。女子は3名いたが、男子に負けぬ元気と輝くほどの笑顔で自己紹介をした。 正面の先生達の席の向かい側の左端に座っていた昌郎は7番目に自己紹介となった。 全校生徒の前での演技や応援活動には慣れている彼だったが、応援団の精鋭が居並ぶ席上では、いささか緊張して僅かに声が上擦るのが自分でもわかった。 自己紹介を終えて着席した時、偶然に右側の席の真ん中あたりに座っている風采のあがらぬあの男子生徒と目があった。 彼は昌郎と目が合うと、僅かに目礼を返して寄越した。 それは、ほんの一瞬のことで昌郎以外には気が付かないようなものであった。 雪降る駅でTOP |
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