[連載]

 31話〜40話( 佳木 裕珠 )


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◆その31
新生応援団(6)


 「それでは、私から新生応援団の皆さんを紹介します」
 彼等が席に着くのを待って由希が言った。
 昌郎は立ち上がると、彼女のその言葉を制して言った。
「自己紹介をさせてもらいます。まず、その前に応援団の御挨拶として、応援の演技を披露させていただきます」
 山村、克也、真治は、突然の昌郎の申し出に驚いた。
 おいおい、まさの奴一体何を言い出すんだ。
 俺等まだまだ応援団として駆け出しだよ。
 突然にそんなこと言ったって。
 彼等の口からそんな言葉が漏れ出しそうだった。
 しかし、昌郎のその言葉に、辻先生をはじめその場に居合わせた皆が、期待を込めてもう一度拍手をした。
 もう、やるしかない。
 山村達は観念して椅子から立ち上がり、昌郎を中にして一列に並んだ。
 押忍、昌郎が一声掛けた。
 それに山村達も押忍と呼応した。
 もう一度、押忍。
 それに呼応して押忍。
「それでは、拙い演技で僭越ではありますが、此処で一発、本校の弥栄(いやさか)を祈念いたしまして披露させていただきます」
 凛とした声が生徒会室に響いた。
 演技としては基本中の基本しか覚えていなかったが、笹岡から教わったそれらを、昌郎達は心を籠めて行った。
 笹岡がいつも言っていた(心の籠もった演技をしろ)その言葉が彼等の胸の中に蘇った。
 そして、あの苦しかった10日間の特訓の最後の日、見渡す限りの風景がそして笹岡先生や自分達が朱色に染まった夕暮れの時の中で味わったあの感動が、沸々と彼等の胸の中に蘇ってきた。
 ああ、自分達は今、とても充実している。
 教室を改修して作った狭い生徒会室の中に、昌郎達の声がガラスを震わせて朗々と響き渡った。
 押忍。
 昌郎のその声に呼応し山村、克也、真治の押忍の声が部屋に木霊(こだま)して、彼等の応援は終った。
 一瞬、全ての音が此の世から消えたような静寂が訪れたあと、割れるような拍手が湧き上がった。



◆その32
エール(1)


 連休が明けた。
 県高等学校総合体育大会の総合開会式まで後一ヶ月を切った。
 昌郎達の高等学校では毎年、入場行進に参加しない一・二年生全員がスタンドで選手達にエールを送ることになっている。
 しかし、ここ数年は応援団員が不在であったために、ただ選手達の入場行進を見ているだけという状態で、当日の欠席者も目立つようになっていた。
 しかし他校では、総合開会式の始まる直前まで、全校生徒による人文字やチアガール達による華やかな演技、猛者達の応援エールの交換などが繰り広げられ、自校の選手入場の際には全校生徒の一糸乱れぬ声援が送られていた。
 あのようになるには、生徒達のやる気と協力がなくてはならない。
 それらの全てが、昌郎達新生応援団の力にかかっていた。
 しかし、あの大きなスタンドに立ち何百人もの生徒を指揮するには、彼等だけではあまりにも寂しく非力だった。
 生徒会役員の先輩達に協力してもらわなければならない。
 しかし役員の中に男子生徒は二人だけ、それも到底応援団には似合わない真治や克也より更にひ弱そうな副会長と会計監査の二年生だった。
 しかし、いないよりはいる方がいいに決まっている。
 先輩二人には太鼓叩きをお願いすれば、自分たち四人はフルに演技や指揮ができる。
 連休が明けた次の日から、六人体制での練習が始まった。
 しかし、役員の二年生二人は、生徒会長の由希からお願いされて嫌とは言えず不承不承だった。
 見るからにひ弱な二人の叩く太鼓は迫力は勿論のこと覇気も活力もなかった。
 しかし、一年と言えども先輩で、ましてやお願いして手伝ってもらっている彼等に昌郎達が色々な注文を付けることは憚られた。
「まさ、あの太鼓どうにかならないかな」
 練習の合間に、山村が昌郎の耳にそうつぶやいた。
 それを耳聡く聞きつけた真治と克也も、相槌を打つように盛んに頷いた。



◆その33
エール(2)


 実は、昌郎も練習初日から太鼓叩きの二人の先輩の身の入らない練習に失望していたが、 それは仕方のないことだとも思っていた。
 いくら協力するとは言っても後輩から指示されることは、先輩としてのプライドが許さないだろう。
 しかし自分達がそうであったように、応援の醍醐味を知れば、必ずや先輩達もそれなりの太鼓を打つようになる。
 そのためにも是非とも彼等にも笹岡先生の指導を受けてもらいたい。
 しかし、役員の二人が協力するに当たっては一つの取り決めがあった。
 昌郎達が笹岡の指導を受ける木曜日は、彼等は学校にいて生徒会本来の仕事をすることになっていたのだ。
 実際、役員の彼等は応援の練習どころではないほど、生徒会の仕事をたくさん抱えていた。
 笹岡の指導を彼等にも受けてもらうためには、木曜日以外の日に笹岡にこの学校へ来てもらわなければならない。
 多忙な仕事の合間を縫って、自分達を指導してくれる笹岡に、更に此方へ来て指導してくれと頼むことは非常に心苦しかった。
 しかし、一か八かでお願いするしかないと昌郎達は話合った。
 木曜日、笹岡の指導による練習が済んだのは、夜の八時を過ぎていた。
「よし、今日は此処までだ。また、一週間お前達でみっちりと練習を積んで来い。その様子を見てから次の段階に進む」
 そう言い終えて立ち去ろうとする笹岡を、昌郎が呼び止めた。
「先生、実はご相談したいことがあります。少しお時間を頂けますか」
「相談?」
 笹岡が訝るような厳しい目を昌郎に向けた。
 昌郎は、笹岡の射るような鋭い眼差しに次の言葉を飲み込んだ。
 そんな彼の様子に一瞥をくれた後で、山村、真治、克也を順々に睨むように見回してから、陰に怒りをこめたような太く低い声でもう一度聞き返した。
「どんな相談かは知らないが、自主練習を始めてまだ何日も経っていないのに、まさか、弱音じゃないだろうな」



◆その34
エール(3)


 笹岡の低く唸るような声を聞いて、昌郎達は震え上がった。
「お前達だけでは、どうしても解決できないようなことか。どうなんだ」
 笹岡は昌郎に視線の焦点を絞った。
 本当に自分達で解決できないことだろうか。
 せわしなく彼は自分の心の中で考えを巡らした。笹岡が山村、真治、克也と順に睨め回すと、真治と克也が
「いいえ、自分達でどうにかなることでした。」
 と声を揃えて言いながら、昌郎と山村の腕を引っ張るように掴んだ。
 山村はううっと唸った。
 昌郎は少し考えてから、こくんと頷いた。
 もしかしたら、自分達でどうにかできることなのかもしれない。
 努力もせずに笹岡先生の威光を笠に着て、物事を解決しようとしている自分が見えた。
「はい、自分達で解決するように努力してみます。先生、お時間を取らせて申し訳ありませんでした」
 昌郎は、そう言って深く頭を下げた。
 他の三人も一緒に頭を下げた。
 笹岡は、そんな彼等の様子を見ながら心持ち表情を和らげた。
 そして言った。
「お前達4人でしっかりと話し合い一つ一つ解決しながら前に進め。安易に人の力を頼るな。他人を頼っていれば、何時までたっても自分達の応援団は作れない。何事も容易いことはない。しかし、頑張れば必ず活路は開かれる。お前達には、仲間がいるじゃないか」
 彼等は、頭を垂れて笹岡の言葉を聞くより仕方なかった。
 生徒会の先輩と一緒に練習してからまだ一週間も経っていない。
 もう少し工夫して練習をしてみよう。
 きっと先輩達にも応援の素晴らしさをわかって貰えるはずだ。
 昌郎がそう思い直して顔を上げた時、真っ直ぐに彼を見る笹岡の視線に出会った。
 そして、その視線のままで笹岡が更に言った。
「太鼓に声がついて行くのではない。声が太鼓を引っ張って行く。声に力があれば、自ずと太鼓に迫力が出てくることを忘れるな」



◆その35
エール(4)


「ああ恐ろしかった。笹岡先生のあの睨み。あれは、でっかい雷が落ちてくる寸前だったな」
 真治が誰にともつかず独り言のように呟いた。
 すっかり暗くなった帰り道、昌郎達は縦一列に並んで自転車を押しながら、とぼとぼと歩いていた。
「ほんと、すんでのところで難を逃れた」
 克也は心の底から安堵するような声で、真治の言葉に同調した。
 昌郎は、自分達の悩みを見通してでもいたような笹岡の最後の言葉を胸の中で反芻していた。
 後ろを歩いている山村が、昌郎へ背中越しに声を掛けた。
「昌郎、笹岡先生の最後の言葉、今の俺達への叱咤激励として的を射ていると思わないか」
「ああ、俺も今そのことを考えていたんだ。太鼓の打ち方に元気もなく張りもないのは、要するに俺達の声に元気も張りもないということなんだと気が付いた よ。 つまり、先輩達に太鼓を叩いてもらっているという意識がどこかにあって、遠慮だけが先にたっていた。俺達は先輩達に何も注文は付けられない。そんな 気持ちが変に不満を募らせていた。そして、自分達に何が足りないかを考えもせずに、笹岡先生の助けを借りようとしていた」
「そうだよ、気持ちの籠もった応援が出来ていなかった。だから太鼓にも、力も元気も気持ちも入らなかったんだ」
 昌郎と山村が頷きあった。
「なんだよ、二人だけで納得して、俺等にも納得させろ」
 真治と克也が昌郎と山村の横にそれぞれ並んだ。
「要するに、俺達にやる気さえあれば、太鼓を叩く方にも自然と力が入り張りが出てくるということだよ」
 昌郎は言った。
「ああ、そういうことだよな」
 真治と克也は素直に頷いた。
「ようし、明日からまた頑張るぞ」
 誰からともなくそんな言葉がこぼれ出た。
「しかし、まるで俺達の悩みを見抜いていたような笹岡先生の言葉だったよな」
 みんなの頭の中に由希の顔が同時に浮かんだ。



◆その36
エール(5)


「それはないと思うよ。生徒会長は忙しくて一度も俺等の練習を見に来ていない。俺等だって彼女に太鼓のことを愚痴ていないよ」
 昌郎が思っていることを言葉に出した。
 三人はぎょっとして彼を見詰めた。
 昌郎が自分と同じことを考えていた。
 彼の言葉に他の者も驚きながらも頷いている。
 みんなが胸の内で思っていたことが同じであったことを彼等は知った。
 そして、互いに顔を見合い、気持ちの中を確認しあった。
「当たり前だよ、生徒会長はそれでなくても色々な仕事や問題を一杯抱えているんだ。俺達は愚痴なんか彼女に零せないよ」
 山村が言った。
「まあ、いいさ。とにかく明日から気合を入れて練習しよう」
 昌郎はみんなにそう言葉を掛けた。
 それを合図に彼等は自転車に乗り、それぞれの家を目指してペダルを踏み出した。
 遅い夕食を終えた後、自分の部屋に入ると疲れ果てて倒れ込むようにベッドに横になって目を閉じていた。
 しかし、何時ものようにすぐには睡魔が襲ってこなかった。
 頭の芯は冴えていた。
 何も言わなくても、同じことを考えていた仲間のことが胸に蘇えり、さっき分かれたばかりなのにとても懐かしく思われた。
 そして笹岡の言葉が耳底で谺し続けていた。
「お前達4人でしっかりと話し合い一つ一つ解決しながら前に進め。安易に人の力を頼るな。他人を頼っていれば、何時までたっても自分達の応援団は作れない。 何時も容易いことはない。しかし、頑張れば必ず活路は開かれる。お前達には、仲間がいるじゃないか」
 短い言葉の中に、多くの示唆が籠もった言葉だった。
 お前達には、いい仲間がいる。
 力をおわせて立ち向かえば何でも乗り越えられる。
 語気強く叱りつけるように笹岡は言ったが、それは弱気になっている自分達を奮起させるための言葉。
 笹岡がエールを送ってくれていたことに彼は気付いた。



◆その37
エール(6)


 応援団の練習場所は、第一体育館の裏手にあるスクールバスの車庫である。
 バスは野球部専用で、校舎から少し離れた場所にある野球場への送迎用として毎日使用されることから、通常は前庭の駐車場にとめられていて、奥まった場所にある車庫はほとんど使われていなかった。
 そこで、太鼓や声援で大きな音が出る応援団の練習場所として車庫が宛がわれた。
 バレーボール部の戸山政子は、転がる球を追いかけて体育館の非常口から外に出た。
 そして雨水を流す側溝に嵌ったボールを拾い上げて戻ろうとした時、体育館の裏手の方から聞こえてくる男子生徒の低く抑えた話し声を耳にした。
 また不良が煙草でも吸っているのかも知れない。
 現場を押さえて先生に報告しようと、勝気な彼女は足音を忍ばせ柱の陰に隠れて体育館の裏を覗いた。
 男子生徒が4人輪になってしゃがんでいた。
 だが煙草を吸っている気配はない。
 それよりも深刻そうな雰囲気で真剣に話し込んでいる。
 よく見ると、何時か由希を訪ねて教室に来たあの一年生達であることがわかった。
 こんなところで一体何を話しているのだろう。
 ちょっと興味を持った。
 話の内容を聞こうとしたが、よく聞き取れなかった。
 ただ、
「太鼓に力が入っていない…」
 とか
「笹岡先生にこっちへ来てもらって…」
 という言葉が切れ切れに聞こえた。
 もっとはっきり聞こうとして体を動かした時、持っていたボールが手から落ち、あろうことか彼等の方へ転がっていた。
 彼女は慌てて、そのボールを拾いに柱の陰から出た。
 突然出現した女生徒に驚いて、昌郎達は一斉に立ち上がった。
「あ、悪いボール拾ってくれる」
 政子が今来たばかりという風を装って彼等に声を掛けた。
 克也がボールを拾って政子へ投げ返した。
「ありがとう」
 ボールを受け取ると政子は急いでその場を立ち去った。



◆その38
六月の空(1)


 由希は、昌郎達のことを常に気に掛けていた。
 自分からたって願って引き受けてもらった応援団ではあるが、初めはどうなることかと気を揉んだ。
 しかし、笹岡の集中特訓を受けた後、見違えるほど応援団員として成長した昌郎達に由希は頼もしさを感じた。
 だが一度途切れた応援団を一から建て直し活動を復活させることは容易なことではないことも明らかである。
 応援団員はたったの4人だけ。
 しかし、昌郎達なら必ず幾多の困難を乗り切って立派な応援団を作ってくれるだろうと彼女は信じていた。
 年下ではあるが昌郎の中にある男らしい線の太さに彼女は好感を持っていた。
 それは、あのねぶた囃子の稽古で初めて会った時から感じていたことだった。
 笛は太鼓に比べて動的なところがない。
 しかし、直向き笛を吹く昌郎の姿に力強さと男らしさを由希は感じた。
 事実、昌郎の吹く笛の調子に、太鼓も鉦も従った。
 それだけの技量と力強さを彼の笛の音は持っていた。
 それは、昌郎の中に潜在する男らしさであり、少年の時から双葉は芽生えていたのであろう。
 由希は漠然とではあるが、そのことに気付いたのかも知れない。
 ともあれ、昌郎達の頑張りに我が校の応援団を託すより道はない。
 自分にできることならば陰になり日向になりながら少しでも協力したいと由希は思った。
 クラスメートの戸山政子から体育館裏の一件を聞いた時、彼等の言葉の端々だけで、彼等が何を話し合っていたのか、由希には十分に理解できた。
 彼女は生徒会顧問の辻に相談した。
 そして辻は笹岡と連絡を取っていたのである。
 出来るだけ彼等の力で困難を乗り越えて欲しい。
 彼等ならそれが出来る。
 笹岡も辻も考えは同じだった。
 前に立ちはだかる壁が高いほど厚いほど、それを乗り越えた時に得るものが大きい。



◆その39
六月の空(2)


 県下の高等学校総合体育大会の開会式は、例年6月の第一金曜日と決まっていた。その折に応援団員はスタンドを埋めた何百人という自校生徒の前に立って選手達の応援を指揮しなければならない。
 それは学校の名誉を背負う応援団として大きな責任ある役目であり、応援団として遣り甲斐のある大舞台でもあるのだが、新米応援団員である昌郎達には窒息しそうなほど、そのことが重く伸し掛かった。
 だが、もうやるしかないのだ。
 今さらやめられません、止めましたと言える訳はなかった。
 一旦引き受けたからには無責任なことは出来ない。
 精一杯やってみよう。
 4人はそう腹を括った。
 生徒会顧問の辻が由希達生徒会役員と昌郎達応援団、そして吹奏楽部部長の根上を集めて、高校総体の開会式に向けた1・2年生全員の応援練習と壮行会の日程を伝えた。
 これからの3週間あまりの期間に授業時間を短縮して3度の応援練習、そして高校総体開会式前日に校内での壮行会が行事の中に組み込まれていた。
一度目の応援練習の日である。
 6時間の短縮授業が全て終ってからの40分間が応援団の昌郎達に与えられた。
 体育館に集まった1・2年生達は、ぶつくさ文句を言いながらクラスごとに並んだ。
 生徒会役員達と昌郎達応援団員がステージの下に一列横隊で並んだ。
 司会が生徒達に幾度か静粛を求めたが、ざわつきは収まらなかった。
 見兼ねた辻がステージに上がって一喝した。
「うるさい。静かにしろ」
 その一声で生徒達は口を閉じた。
 ぐるっと生徒達を見回した後で辻はおもむろに口を開いた。
「これから応援の練習をする。真剣に受けるように」
 短いが、生徒達を黙らせる気迫に満ちた言葉だった。
 辻が降壇した後、由希が昌郎達と太鼓を担当する二人の生徒会役員を引き連れて登壇した。
「応援団ってあの一年生達か」
 登壇する彼等を見て、体育館の中はまた騒がしくなった。



その40
六月の空(3)


 昌郎達は、応援の練習計画について十分に練ったが、果たして自分達の指揮に皆が従ってくれるかどうか不安だった。
 1年生だけならまだしも、自分達よりも先輩の2年生もいる。
 そして約4百人もの集団を動かさなければならないのだ。
 応援練習の日が近づくにつれて彼等には不安が募ったが、やるしかない今までの練習の成果を出し切ることだと自分に言い聞かせ腹を据えた。
 しかし応援練習の第一日目、由希の後に続いてステージに上がる時は、流石に大きな不安と緊張に身が竦(すく)んだ。
 さあステージにあがるぞと昌郎は横に並んでいる真治を見て小さく声を掛けた。
 真治はこくんと頷いたが、足が小刻みに震えているのがズボンの裾の動きで分かった。
 真治の更に隣に居る克也に目をやると、彼も真治以上に膝が動いている。
 そして素早く端にいる山村に目をやった。
 山村は堂々と胸を張って立っていた。
 彼を見た時、昌郎は肝が据わった。
「よし、やるぞ」
 彼は腹の底から湧き上がって来る力を感じた。
 昌郎、真治、克也、山村そして太鼓の生徒会役員二人がステージに上がり生徒会長である由希の後ろに横一列に並んだ。
 昌郎達がステージに上がると、体育館に居並ぶ生徒達がまたざわめき出した。
 生徒会副会長と会計監査の二人は、流石(さすが)3年生だけのことはあった。
 大勢の1、2年生を前にしても怯(ひる)むことなく毅然とした姿勢で立った。
 ステージの中央にあるマイクの前に生徒会長の由希が進み出た。
 そして体育館に居並ぶ1、2年生達をゆっくり見渡した。
 彼女の行動は、あたりを払うような威厳に満ち溢れていて、それまでざわついていた体育館が、水を打ったように静かになった。
 話し声が止んでからおもむろに由希が言った。
「応援団幹部を紹介します」
 昌郎達は自分の耳を疑った。
 俺達が応援団幹部。
「応援団幹部の人達は、私が是非にとお願いしてなってもらいました」



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